現在、神戸空港は国内有数の路線網を有し、地方空港ながらもハブ空港としての地位を確立しつつある。
神戸空港がここまで国内線路線網を擁するハブ空港へと変貌したのは、大都市に近接した立地的なアドバンテージはもとより、航空各社の努力の結果に他ならない。神戸を西日本のハブとして位置付けるスカイマークとフジドリームエアラインズの動向、更にもう一社あるはずだった神戸拠点の航空会社が幻となった背景に迫った。
日本航空の撤退を機に急拡大したスカイマーク
スカイマークは神戸空港開港に際して、一番初めに就航へと名乗りを上げた航空会社である。
神戸開港当初は、羽田線のみを1日7往復運航し、多頻度運航と手頃な運賃で利用者の支持を広げた。今では神戸発着の他社の運航規模を大きく引き離し、2020年のウインターダイヤで8都市23往復便を運航。同社の運航拠点としては、羽田空港と並ぶハブ空港に成長している。
同社が神戸空港での運航規模をここまで拡大できた背景には、日本航空の神戸撤退がある。
神戸空港は開港当初から1日30便という発着枠が課せられ、スカイマーク・全日空・日本航空でほぼ使い切った状況が続いてきた。状況が変わったのは2010年。経営破綻した日本航空が神戸空港から撤退することになり、発着枠に余裕が生じたのだ。
スカイマークはそこに目を付け、空いた発着枠を利用して神戸発着路線網を急拡大。その後も徐々に路線を拡大し、今では関西エリアにおいて大手航空会社に次ぐ国内線路線網を構築するまでに成長した。今後も神戸空港の運用規制が緩和された場合には、国内線の更なる拡充と国際線の新規就航を検討するとしている。
スカイマークは2015年に経営破綻したが、再建に際しても神戸路線は路線数・便数ともにほぼ維持され、西日本の拠点としての重要性が色濃く反映された。経営破綻に伴う民事再生手続きは2016年3月で終了し、撤退していた神戸―仙台線の運航が2017年7月より再開。2018年に神戸市で行われた講演会では、スカイマークの元会長・佐山氏が「今後神戸空港の運用規制が緩和されれば、関西の玄関口は神戸空港になる」と発言しており、今後も神戸空港を重視した路線展開が行われる見込みである。
また過去に、神戸空港の運用時間・発着枠規制が緩和された場合の事業計画提案として、以下のように羽田便・那覇便の増便を神戸市へ打診したことがある。しかし、依然として発着枠・運用時間には厳しい規制が課せられているため、いずれも実現していない。
羽田21:55発 → 神戸23:05着 | 神戸22:30発 → 羽田23:45着 |
羽田5:20発 → 神戸6:30着 | 神戸6:40発 → 羽田7:55着 |
神戸23:00発 → 那覇1:05着 | 那覇5:00発 → 神戸6:55着 |
スカイマークの神戸路線開設状況(予定・廃止路線含む)
- 2006年2月 神戸―羽田線
- 2009年12月 神戸―那覇線
- 2010年2月 神戸―福岡線(同年4月廃止)
- 2010年4月 神戸―茨城線
- 2010年7月 神戸―新千歳線
- 2010年7月 神戸―旭川線(経由便 同年10月廃止)
- 2010年9月 神戸―鹿児島線
- 2010年10月 神戸―熊本線(2012年9月廃止)
- 2010年12月 神戸―長崎線
- 2012年3月 神戸―成田線(同年11月廃止)
- 2013年7月 神戸―新石垣線(2014年3月廃止)
- 2013年12月 神戸―米子線(2015年8月廃止)
- 2014年4月 神戸―仙台線(2015年10月廃止・2017年7月再開)
- 2020年10月 神戸―下地島線
地方路線の救世主フジドリームエアラインズ
神戸発着の地方路線は、今までスカイマークが中心となって展開されてきた。しかし、スカイマークが運航するボーイング737型機の座席数は177席で、需要が細い地方路線では座席を埋める事が難しく、神戸空港において地方路線を充実させるには100席以下の航空機を持つ航空会社の就航が不可欠であった。
ここに救世主の如く現れたのがフジドリームエアラインズである。
2019年10月、神戸空港の運用規制が一部緩和され、これを機にフジドリームエアラインズが神戸―松本・出雲線に就航した。同年12月からは神戸―高知線、2020年3月からは神戸―青森線に就航するなど、半年もの間に4路線を開設。また、いずれの路線もJALとコードシェアを実施しているため、間接的にではあるが神戸空港にJAL便が復活することとなった。
同社の三輪社長は神戸就航後のインタビューで「西日本の拠点(ハブ)として育てたい」と述べており、今後の路線展開として札幌丘珠空港や東北地方への新規就航を示唆している。
フジドリームエアラインズの神戸路線開設状況(予定・廃止路線含む)
- 2019年10月 神戸―松本線
- 2019年10月 神戸―出雲線(2021年3月を以て運休)
- 2019年12月 神戸―高知線
- 2020年3月 神戸―青森線
- 2021年3月 神戸―花巻線
- 2022年3月 神戸―新潟線
幻の神戸航空株式会社とは
「神戸航空株式会社」その名前を聞いたことがある人は殆ど居ないだろう。それもそのはず、同社は就航前に「スターフライヤー」へと社名を変えているためだ。
海上空港として整備が進んでいた神戸空港は、本来24時間運用が可能であり、深夜早朝時間帯を含めて柔軟な運用が出来る空港となるはずだった。この神戸空港の利便性を生かし、羽田空港との間に多頻度運航のシャトル便を就航させることを目指して設立されたのが「神戸航空株式会社」であった。
しかしながら、開港が近づくにつれ、神戸空港には運用時間をはじめとした様々な規制が課せられることが判明。数々の運用規制が事業展開に支障を来すと判断した同社は、神戸と同時期に開港予定だった同じ海上空港である北九州空港へと拠点を移し、社名も「スターフライヤー」へと変えることとなった。関西エリアを拠点とする航空会社が誕生する絶好の機会が失われたのだ。
歴史に「もし」は禁句であるが、もしスターフライヤーが神戸を拠点に事業を展開していたならば、どのような現在を迎えていたであろうか?神戸空港がもたらす経済効果は更に大きくなり、また航空業界の勢力図が今とは違ったものとなっていた可能性も十分考えられる。神戸空港に敷かれた運用規制は、神戸はもとより関西全体にとって大きな損失をもたらしていたのである。
現在、スターフライヤーは北九州ー羽田線をはじめ羽田ー福岡・関西・山口宇部・福岡線など北九州空港と羽田空港を中心に路線展開を行っている。