なぜ小型機の胴体着陸は無くならない?理由は訓練内容にあり!?

訓練機やプライベート機など小型機の発着も多い神戸空港。滑走路閉鎖は定期便の運航に甚大な影響を与える。

2024年5月31日、神戸空港でヒラタ学園の運航する小型機が胴体着陸した。この影響で多数の便に欠航や目的地変更が発生。多くの利用者に影響が生じた。

神戸空港では、小型機による滑走路閉鎖(タイヤのパンク・胴体着陸等)がこれまでも複数回発生。そのため、同空港での離着陸訓練等には開港当初より厳しい制約が課せられている。

今後、発着枠拡大と国際化を控え、滑走路閉鎖が及ぼす影響は更に甚大となることから、このような運航トラブルが続くと、神戸空港での小型機の運航環境はますます厳しくなる可能性もある。小型機の操縦者・運航事業者は、より一層の安全運航が求められている。

目次

小型機で頻発する理由は訓練!?

等級限定変更訓練で使用される双発機の一例

昨年8月にも大分空港で小型機による胴体着陸が発生しているが、実は今回の神戸空港での胴体着陸と共通点がある。それは「双発機」の「訓練飛行」という点だ。

パイロットの技能証明(ライセンス)は、資格(自家用/事業用など)・種類(飛行機/ヘリコプターなど)・等級(単発/多発、ピストン/タービンなど)・型式(B737/A320など)が細分化されている。細かい説明はここでは割愛するが、ライセンスを取得して航空会社のパイロット採用を受験するためには、「事業用」の「多発限定」を取得する必要があり、パイロットを養成する各訓練学校では、これらを取得するための訓練を実施している。

この「多発限定」を取得するための訓練では、名前の通り多発(双発)エンジンの機体を用いて、片方のエンジンが停止した場合でも安全に飛行できる技倆を身につけることになるのだが、この訓練の中で「うっかり」を誘発する可能性がある訓練科目が存在する。それが「片エンジンを模擬不作動状態(出力をアイドルまで絞り、模擬的に片方のエンジンを止めた状態)とした着陸」である。

「片エンジンの模擬不作動状態」を作り出すと、機内ではエンジンの出力低下を知らせる警報が鳴り続けるのだが、この警報が鳴っていることにより、ギア(車輪)が出ていない時に発生する警報が鳴らない(警報音が1種類しかない)仕組みとなっていることが訓練機では多い。そのため、この訓練科目を実施している際に「うっかり」ギアを出し忘れても気が付かない可能性があるのだ。

もちろん、このような「ギアの出し忘れ」という「うっかりミス」を防ぐため、着陸前にはチェックリストが必ず実施される。しかし、操縦に必死になっている訓練生がチェックリストの実施を忘れ(もしくはチェックリストが形骸化し)、教官もそれに気が付かなかった場合、胴体着陸に至ってしまうのだ。

昨年発生した大分の事例や今回の神戸の胴体着陸の原因が「うっかりミス」によるものかはまだ判明していない。しかしながら、双発機での胴体着陸の事例は、このような訓練科目が原因となっている可能性が極めて高い。

旅客機ではなぜ起きない?

旅客機での胴体着陸は殆ど例が無いが、その理由は複数ある。まず1つ目に、実機において緊急事態を模擬する機会が無いということが挙げられる。

我々航空会社のパイロットは、1発動機不作動状態での離着陸など緊急事態を模した訓練・審査をシミュレーターで定期的に実施している。しかし、実機ではこのような緊急状態を作り出した訓練は実施しないため、訓練に起因する航空事故・重大インシデントは基本的に発生しないのだ。

2つ目に、旅客機には幾重にも警報が用意されていることが挙げられる。

旅客機にはギアが出ていない時に発生する警報が複数存在し、機材故障等で発生する警報とは別に警報が用意されている。それがGPWS(対地接近警報装置)というシステムである。GPWSは地表への衝突等を防ぐためのシステムで、ギアを出し忘れた状態で着陸態勢に入ると、GPWSが”too low gear”という警告音声を発するようになっている。このGPWSは、一定の大きさ以上の旅客機には必ず搭載することが義務付けられており、安全を担保する最後の砦とも言える警報装置なのだ。

そして、最後に挙げられるのは旅客機が”2man operation”であるという点である。

多くの旅客機は、”2man operation(2名のパイロットによる運航)”を前提に設計されており、機長と副操縦士の2名によって運航が成り立つようになっている。この「操縦室内に2名のパイロットが存在している」という状況により、お互いのミスにも気が付きやすい体制が確立されているのだ。

ちなみに、旅客機にはシステム故障でギアが出なくなった場合にも、重力を利用してギアを出すシステムが備わっている。そのため、旅客機では余程の異常事態でない限り胴体着陸は発生しないのだ。

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