広島空港での誘導路逸脱はなぜ起きた?歪な誘導路形状と目立たない禁止標識・禁止区域灯

広島空港での誘導路逸脱事例を報じるニュース

22日夜、広島空港に着陸し地上移動中だったANA機がエプロン内の工事中区域に進入。身動きが取れなくなるという事態が発生した。幸い、乗客乗員に怪我人は発生しなかったものの、安全確認に時間を要したため、同機の移動・撤去作業は23日の深夜にまで及んだ。

工事区域には禁止標識(路面の×印)や禁止区域灯(赤色不動光の灯火)等が設置されていたが、なぜ同機は誘導路を外れて禁止区域へと進入してしまったのだろうか?

目次

歪だったエプロン誘導路の形状

Figure 3が工事中の誘導路形状。エプロン内で大きく蛇行している。(出典:航空路誌補足版)

現在、広島空港ではエプロンタクシーウェイ(駐機場内の誘導路)の一部で工事が行われている。そのため、現在この工事区域を避けるように地上走行経路が新たに設定されており、エプロン内で誘導路の形状が歪になっていた。今回の事例は、この曲がった誘導路部分を直進してしまったために発生したのだ。(誘導路の形状は上記の図参照)

エプロン内で工事が行われることは全国的に見ても珍しい事ではない。だが、殆どは飛行機が停留するスポット部分の舗装工事であり、このように誘導路の形状を曲げて工事が行われることはあまり無い。そのため、今回の同機のパイロットは「まさかエプロン内で誘導路が曲がりくねっているはずがない」というような思い込みで工事区域に進入してしまった可能性が高いだろう。

ちなみに、誘導路には中心線が引かれており、その中心線上には誘導路中心線灯が整備されていることが殆どである。しかし、今回のような一時的な工事の場合、誘導路中心線の引き直しは行われるものの、誘導路中心線灯までは整備されない。そのため、今回のようなケースでは、夜間はタクシーライト(航空機に装備された路面を照らすためのライト)に照らされた誘導路中心線と誘導路縁に設置される誘導路灯のみが道しるべとなるため、地上走行には非常に注意を要する状況であった。

誘導路縁に設置される誘導路灯(青色)と誘導路中心線上に設置される誘導路中心線灯(緑色)

「出発前の確認」は最重要な義務だが…

誘導路を逸脱したANA機が誘導路を塞いだため、同機を移動させるまでの間は一部の誘導路が閉鎖となった。この際にも「航空情報」としてNOTAMが発出されており、赤色で示された部分が閉鎖となっていることが周知されている。(出典:航空路誌NOTAM)

我々パイロットは運航便の出発前に「出発前の確認」を必ず行う。これは航空法に定められたパイロット(機長)の義務であり、この「出発前の確認」で機材の整備状況や気象情報など航空機の運航に必要な情報を確認するのだ。この中には「航空情報」という項目も含まれ、滑走路や無線施設等の運用状況は勿論、今回のような「空港内で行われている工事」や「誘導路の運用状況」等の情報も必ず確認することとなる。

(出発前の確認)
第七十三条の二
 機長は、国土交通省令で定めるところにより、航空機が航行に支障がないことその他運航に必要な準備が整つていることを確認した後でなければ、航空機を出発させてはならない。

航空法73条の2

(出発前の確認)
第百六十四条の十五
 法第七十三条の二の規定により機長が確認しなければならない事項は、次に掲げるものとする。
一 当該航空機及びこれに装備すべきものの整備状況
二 離陸重量、着陸重量、重心位置及び重量分布
三 法第九十九条第一項の規定により国土交通大臣が提供する情報(以下「航空情報」という。)
四 当該航行に必要な気象情報
五 燃料及び滑油の搭載量並びにそれらの品質(燃料の品質にあつては、当該航空機がピストン発動機又はタービン発動機を装備している場合に限る。)
六 積載物の安全性
2 機長は、前項第一号に掲げる事項を確認する場合において、航空日誌その他の整備に関する記録の点検、航空機の外部点検及び発動機の地上試運転その他航空機の作動点検を行わなければならない。

航空法施行規則164条の15

航空会社では、この多岐にわたる「航空情報」をまとめ、カンパニーノータムという形でパイロットに提供。パイロットはこのカンパニーノータムを電文形式で確認し、必要に応じて各空港のチャートを開き、今回のような工事区域の具体的な場所を確認することとなる。

今回の事例のパイロットも、勿論この工事に関する情報は確認していたはずである。だが、工事によって「誘導路形状が変更されている」ことまでは確認していなかった、もしくは注意が及んでいなかった可能性が考えられるのだ。

見づらい標識・灯火

ピーチ機の誘導路誤進入を報じるHBCニュース

昨年9月には、新千歳空港でピーチ機が閉鎖中の誘導路に進入するという事例が発生した。この際にも、「航空情報」として当該誘導路の閉鎖は報じられており、禁止標識や禁止区域灯等が設置されていたが、パイロットはこれに気が付かずに閉鎖区域へ進入してしまったのだ。

ピーチ機の事例では、飛行機が着陸後に滑走路から出るために使用する「高速離脱誘導路」という誘導路が閉鎖となっていた。そのため、禁止標識等に気付いた時にはまだ相当なスピードが出ており、既に止まれない・進路を変えられない状況であったということは想像に難くない。通常、高速離脱誘導路には50kt前後(100km/hほど)のスピードで進入する事が多く、誘導路上に描かれた禁止標識(×印)や小さな禁止区域灯に気付いてからでは手遅れなのだ。

このピーチ機の事例も今回のANA機の事例も、パイロットが「航空情報」を運航に生かしきれていなかったことが一因であることは言うまでもない。だが、両事例ともパイロットが禁止区域を認識出来なかった(認識した時には手遅れであった)ということを考えると、空港側の対策も不十分だったと言えるのではないだろうか?たとえ禁止区域灯や禁止標識が設置されていたとしても、パイロットがその存在をはっきりと認識した時点で既に回避出来ないようでは、禁止区域の表示が本来の役割を十分に果たしているとは言えない。

人は思い込みやミスを起こすものである。思い込みやミスが起きることを前提とし、複数の防止策を講じておくことは特に航空業界にとっては常識である。今回のような誘導路の閉鎖一つをとっても、禁止区域の表示方法については見直しが必要となっているのではないだろうか?

海外の空港では、誘導路や滑走路閉鎖時の禁止区域の表示に際して、巨大な三角コーンを設置したり、非常に明るい照明で禁止区域を明示している場合が多い。海外の例も参考に国内の運航環境の改善も期待したい。

神戸空港供用開始前の画像。滑走路上の×印が禁止標識。(出典:神戸市資料)
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