2021年2月16日で神戸空港は開港15周年を迎える。
過去最多の旅客数を記録した昨年度から一転、今年度は新型コロナウイルスの影響を受け、過去最少の旅客数を記録する見込みである。それに伴い、関西エアポート神戸の決算も初の営業赤字を見込む。
2018年の民営化後、2019年には限定的ながらも悲願の規制緩和を成し遂げた神戸空港。民営化によって何が変わったか、コロナ禍真っ只中で開港15周年を迎えた神戸空港を取材した。
旅客数
近年、航空需要の高まりと発着枠の拡大を受け、神戸空港の旅客数は右肩上がりに増加を続けていた。
しかし、2019年度後半からは新型コロナウイルスの影響を受けて旅客数は大きく減少。2020年度は過去最低の旅客数を記録する見込みであり、関西エアポート神戸は神戸空港の旅客数の見通しを従来想定から約3割引き下げることを決めた。
就航路線
2020年は新型コロナウイルスの影響で航空需要が大きく落ち込んだが、青森線・下地島線が相次いで就航。2021年2月時点で神戸空港発着路線は発表ダイヤベースで12路線36往復便に上る。
3月下旬の夏ダイヤからは12路線37往復便の運航ダイヤが発表されており、発表ダイヤベースでは引き続き発着枠(1日40往復)は逼迫した状況が続く。しかしながら、現在航空各社は減便による需給調整を行っており、ここ最近の運航便は発表ダイヤの半数前後で推移している。
22時台の到着便
2019年の運用規制の一部緩和により、神戸空港は運用時間が23時まで延長され、深夜便への需要が期待されていた。
運用時間が延長された当初は、22時台の神戸到着便をスカイマークが3便、ソラシドエアが1便設定していたものの、2021年2月時点では両社1便ずつの設定に留まっている。特に、深夜便として期待が大きかったスカイマークの22時台羽田到着便に関しては、2020年冬ダイヤから運航を取りやめており、新型コロナウイルスによる国内線需要縮小の影響を大きく受けている。
今後、国内線需要の回復を待って、再び深夜便の可能性を探っていく必要があるだろう。
知名度向上が課題のFDA路線
フジドリームエアラインズ(以下、FDA)の出雲線は就航当初から搭乗率が伸び悩み、新型コロナウイルスの影響も相まって就航早々に運休。本来であれば、需要喚起しながら徐々に搭乗率を伸ばすところ、路線需要を正確に判断出来ないまま、事実上の撤退が決まった。
3月下旬の夏ダイヤからは、出雲線に代わり花巻線が就航する。コロナ禍で新規就航としては厳しいタイミングとなるが、東北路線は鉄道・高速バスとは競合しないため、ポテンシャル自体は高い。
2019年から新規就航したFDAは、関西においてまだまだ認知度が不足しており、神戸発着の全路線で搭乗率低迷が続く。春より新規就航する花巻線も含め、FDA路線の認知度を上げる取り組みが一層求められている。
空港アクセス
ポートライナー
近年、通勤時間帯の混雑が問題となっていたポートライナーは、輸送力増強を目的とした8両編成化の検討が神戸市によって進められていた。
しかし、市は費用対効果の観点から8両編成化を現時点では断念。市から公式なアナウンスはないものの、駅ホームの延長に加え、軌道の橋脚補強が必要になる可能性があり、実現へのハードルは高いと判断した模様である。
8両編成化の議論は一旦白紙となっているものの、三宮駅ではホーム混雑解消のため、東端の拡張工事が進められている。
シャトルバス
神戸空港の民営化にあわせ、新神戸・三宮ー神戸空港間のシャトルバスが本格運行されている。
しかし、シャトルバスは所要時間・運行本数共にポートライナーに大きく劣ることから、利用率は依然として伸び悩み、今年度は新型コロナウイルスの影響を受けてバス運行本数も減るなど、悪循環が続く。
現在、シャトルバスはポートアイランド内の停留所を経由し、空港利用者以外の需要取り込みも図っているが、運行本数・間隔等を抜本的に見直さない限り、空港アクセスとしての定着は難しいと言わざるを得ない。
神戸-関空ベイシャトル
関西空港を利用するインバウンド客を取り込み、昨年度までは利用客数が大幅に伸びていた神戸-関空ベイシャトル。新型コロナウイルスの影響でインバウンド客が消失しただけでなく、日本人による国際線需要も激減したため、利用者数は大幅に落ち込んでいる。
現在は通常ダイヤの半数程度の減便ダイヤで運行しているが、国際線需要が回復しない限りは厳しい状況が続くと見られる。
空港連絡橋の拡幅工事
神戸市は空港アクセスの改善策として、空港連絡橋と生田川右岸線の拡幅工事を予定。中でも、空港連絡橋の拡幅工事(片道1車線→片道2車線)は既に設計段階に入っており、2021年度に着工する見込み。
また、神戸市は道路改修に並行してBRT(バス高速輸送システム)の導入についても検討を進めている。
空港施設
商業エリアの改修・区画見直し
前代未聞の旅客数減少を受け、神戸空港においてもテナントの撤退が相次いでいる。
現存する各テナントも、営業時間の短縮や一時休業を実施しており、空港利用時には各テナントの営業時間に十分注意が必要である。
2021年2月現在、営業を続けているのは以下の店舗である。
- 黒レンガ倉庫 CAFÉ
- 神戸洋食キッチン
- たもん庵
- 上島珈琲
- ファミリーマート
- ANA FESTA
- コンディトライ神戸
- MARINEAIR MART Ⅰ
- Sky Lounge Contrail(予約制)
関西エアポート神戸の中期計画には、制限エリアにおける新しい商業区画がイメージとして描かれていたが、現時点での目立った改修は一般エリアにあるファミリーマートの2階への移転に留まっている。
新型コロナウイルスによる影響で、ファミリーマートが移転した1階の区画は未だにテナントが決まらず、飲食店フロアの3階も一部区画が閉鎖されたままであるなど、一般エリアにおいてもテナント誘致に苦戦しており、制限エリアの改修にはまだ着手出来ていないのが現状である。
スマートレーンの導入
伊丹・関空の保安検査場で導入されているスマートレーンについても、神戸空港で導入予定とアナウンスされているが、保安検査場の改修にも未だ着手できていないのが現状である。
新型コロナウイルスの影響を受ける前であった昨年度の後半には、保安検査場の混雑が深刻化し、特に朝7時台については出発便毎に保安検査場通過を制限するなどの措置が取られていた。
現在、皮肉にも検査場混雑は解消された訳であるが、航空需要の回復に伴って、再び検査場混雑が問題となる可能性は極めて高い。スマートレーン導入に加え、検査レーンの増設など、将来を見据えた根本的な解決策が求められる。
駐車場
2018年まで第一駐車場東側には砂利の臨時駐車場が広がっていたが、2018年11月から2019年3月頃にかけてアスファルト舗装工事が施され、第一駐車場が拡張する形としてオープンしている。この拡張部分に関しては関西エアポート神戸の運営権が及ぶ範囲に含まれておらず、神戸市が臨時駐車場を舗装して関西エアポートに賃貸する形をとった模様である。
また、長年駐車場精算機は現金のみ対応となっていたが、2020年からはクレジットカード払いにも対応している。高額支払いとなりがちな空港駐車場において、クレジットカード払いに対応したことは、利用者目線で大きく評価できるだろう。
駐車料金の設定は、神戸市営時代から引き続いて搭乗者割引が継続されており、伊丹・関空において適用されているKIX-ITMカードの駐車場割引特典は導入されていない。
国際化への課題は?
第9回の関西3空港懇談会において、神戸空港について国際化を検討することが取りまとめられた。
しかしながら、具体的なスケジュールや規模などの議論は、第10回の同懇談会においても先送りされているのが現状である。国際線需要の先行き不透明感以外にも解決しなければならない課題は存在しており、関西3空港懇談会での前向きな議論が引き続き待たれる。
発着枠・飛行ルートの課題
関西エアポートの山谷社長はマスコミの取材に対し、神戸の国際化にあたっては採算性の観点から「20~30便程度の発着便が必要」と述べており、現在の発着枠には収まらない。
神戸空港の発着枠に関しては、当サイトでは予てから根拠がない上限と指摘しているが、まずは現状の飛行ルートでの管制取り扱い上の上限を検証しなければならない。これは航空局との調整も必要となるため、関西3空港懇談会だけで解決できるものではない。
もし、管制上のシミュレーションを実施した上で、現状の飛行ルートでは発着枠の大幅な積み増しが困難という事になれば、国際化の前に飛行ルートの大幅な見直しは避けて通れない。
地上施設の課題
また、発着枠の問題に加えて、地上施設の拡張にも課題が残る。
現ターミナルビルの東西にはビル拡張用地が開港当初から確保されており、ここに国際線ターミナルビルを整備することは可能である。しかし、朝・晩の時間帯は、現状でも駐機場にほぼ空きは無く、国際線の就航にあたってはターミナルビルの拡張だけでなく、駐機場の拡張も必要になる可能性が極めて高いのだ。
神戸市の久元市長は、分譲用地の用途変更の可能性も示唆しており、国際化の規模によっては空港用地を拡張した上で、国際線施設を整備するということも考えられる。
おわりに
神戸空港も伊丹・関空と同じ運営会社の傘下に入ったことで、長年の悲願だった規制緩和が実現するなど、民営化による功績は大きいとはいえ、まだまだ3空港が有機的に連携しているとは言い難い。
利用者目線で見ると、ターミナルビルにも徐々に民営化の「色」が出てきているのは事実ではあるが、KIX-ITMカードの特典が利用できない、ホームページが民営化以前のものから改修されていないなど、まだまだ改善点が多く中途半端な印象は拭えない。加えて、今年度は新型コロナウイルスの影響が関西エアポートの経営にも暗い影を落としており、今後の投資計画が予定通り実施されるのか注視していく必要がある。
新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ国際線の航空需要回復には、国内線以上に時間が掛かるとみられている。そのため、航空各社はもとより空港運営会社も当面の間は国内線需要に頼らざるを得ず、神戸空港における国内線需要は相対的に重要性が増していると言えるだろう。
今春にも第11回目となる関西3空港懇談会が開催される見込みである。2025年の大阪関西万博に向け、関西空港の更なる発着能力拡大に向けた検討を進める事は勿論、神戸空港の更なる規制緩和の議論も更に進めていかなければならない。