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【関西3空港の行方 第1部】自立できる空港へ – 関西国際空港、長い道のり

関西空港

仁川、釜山、上海、香港、北京…。今、関西国際空港の国際線時刻表の行き先は殆どがアジア便だ。

1994年、西日本のハブ空港を目指してオープンした関西国際空港(以下、関空)。当初は、国際線がアジア・北米・欧州など世界各地に、国内線が32都市約70往復就航していたが、今では国際線は北米・欧州などの便は廃止が相次ぎ、国内線に至っては7都市約30往復と見る影もない。

路線減少の一つの原因と言われるのが、関空が抱える巨額な負債から来る高額な着陸料だ。

B747-400(満席、2008年)の着陸料を例にとってみると、羽田空港が95万円、成田空港が77万円、中部空港が66万円、そして関空は83万円である。航空需要が首都圏空港よりも少ない関空が、首都圏空港と着陸料で差をつけられないのは大きな痛手だ。

では、なぜ関空は高額な着陸料の原因となっている巨額な負債に悩まされているのか。一つは空港島の埋め立て造成で多額の資金を必要としたにもかかわらず、成田空港のような公団方式ではなく株式会社方式で関空を設立した経緯が挙げられるが、それに拍車を掛けたのは「2期事業」への投資である。

身の丈を超えていた「2期事業」

関空の「2期事業」は「持論と討論」の章でも紹介しているように、関空の完全24時間化・発着枠の拡大を目的に土地の造成だけで9000億円もの巨費を投じて行われた。しかし、2009年度の発着回数は約10万6000回と1期のみで対応できる発着回数(約16万回)にも満たない。

結果、発着枠に余裕がありながら進めた「2期事業」は関空の負債を膨れ上がらせることとなり、年200億円の利子負担は関空の経営を圧迫、それを反映し着陸料は高額なものとなった。高額な着陸料は路線の減少を招き、毎年政府から90億円の利子補給金を受け取ることで首の皮一枚繋がった経営をしている。

さらに最近になって、完成を遅らせることで固定資産税の支払いを免れていた2期島の一部に対して地元自治体の泉佐野市が「みなし課税」の検討に入った。完成を遅らせていた2期島の一部に対して「みなし課税」が掛かると毎年約6億円もの固定資産税が発生することになる。

これを受けてか、国交省は伊丹・関空との統合後に土地を有効活用できるように2011年度中に2期島の237ha分を完成させると発表。完成すれば金利や固定資産税など、泉佐野市の課税を含めて年約60億円という現在の伊丹の黒字額(年40億円)を相殺する規模の費用負担が発生する見込みだ。身の丈を超えていた「2期事業」を後先見ずに進めた代償はあまりにも大きい。

今後の課題と伊丹との経営統合・運営権売却

アクセス改善

今、大阪府知事や政財界がこぞって口を揃える「アクセス改善」になぜ投資しなかったのか。「関空2期事業」を進めることで得たものを考えると、9000億円もの巨費は投資するものが明らかにズレていた、そう言わざるを得ないだろう。

1時間利用圏の人口は、関空 400万人・伊丹 1500万人・神戸 1000万人というデータがある。この数字を見ても分かるように、関西空港は広域アクセスに劣っているのだ。これは関空において早急に克服されるべき課題であり、一刻も早く取り組まなければならない。

神戸・伊丹の規制緩和

「将来像」の項でも紹介したように、神戸空港・伊丹空港は関空低迷が原因で、数々の規制の下での運用を強いられている。

神戸空港については、海上空港であるにもかかわらず深夜・早朝の運用が制限され、明確な根拠が無いにもかかわらず1日30往復便という発着枠が定められている。また、全国の地方空港では認められている国際線の就航も、神戸空港においては原則許可されていない。

首都圏空港では成田空港と羽田空港の「内際分離の原則」が撤廃に向かっていることを考えても、関西でも規制緩和の流れは避けて通ることはできない。

今後、伊丹・関空の経営統合を機に、各空港の独立採算という概念は薄れていくと見られる。しかしながら、各空港の競争力は今後も高めていく必要があり、関西空港は伊丹・神戸への運用規制が無くとも自立できる体質へ生まれ変わらなければならない。

経営統合・運営権売却

最近になって関空・伊丹を経営統合し運営権を売却することで関空の負債を返済するという案を国が提示し具体的な検討に入っている。

国交章は関空・伊丹の運営権を1兆3000億円と試算し、一括・分割払いを想定。関空の利用が年1%ずつ伸び、伊丹の利用は伸びないことを前提にしているが、試算通りに進む可能性は高いとはいえない。現状の関空・伊丹の売り上げでは投資利回りを確保することは難しく、またリニア中央新幹線が開通した際の旅客の落ち込みなども考えられるからだ。

その上、関空に出資している自治体や経済界の意向を反映されるかどうかは不明であるため、運営権を取得した企業が伊丹に資源集約するということも考えられ、この場合は関空のハブ化という本来の目的からは程遠いものとなる可能性もある。

また、当然このような巨額な運営権を売却するということになれば外資の参入も視野に入れる必要があるが、国はその点についても具体的には触れていない。法案可決を急ぐあまり内容が乏しいものとならないよう今後も議論を重ねる必要があるだろう。また、売却先が現れず運営権の売却が失敗した場合も想定しておくべきである。

ここ最近、関空は新規就航便に限って行った着陸料の減免などが功を奏しLCCを中心にアジア方面の路線を増やしつつある。地元マスコミもこぞって盛況振りを報道するが、決してこのまま楽観視していてはいけない。

関空は世界各地へ飛び立つことができるハブ空港を目指して設立されたのだ。現在のアジア方面への便の増加は関空が単にアジアの他のハブ空港のスポークスの単なる一空港になっていることをも意味する。

今後は関西で唯一4000m滑走路を持つ強みを生かして、アジア方面だけ無く欧州方面などの長距離線の誘致にも力を入れるべきだ。また、現在飽和状態にある首都圏空港の発着枠が今後増加することを考えると、首都圏空港への路線の鞍替えも考えられ、関空への路線定着は首都圏空港とどれだけ差別化できるかにも掛かってくる。

関空を拠点とする格安航空会社ピーチの話題、中華航空が就航を表明した関空初の米国東海岸路線となるNY線の話題など明るいニュースが聞こえてくる一方、既存航空会社との住み分けやそもそもピーチが軌道に乗るかどうかも不明であり手放しには喜べない。この勢いを維持したまま関空が発展できるかどうか、全ては地元・国がどこまで本気になって関空と向き合うことができるかに掛かっている。

自立へ向けて関西国際空港は長い道のりを歩み始めた。

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