持論・討論

なぜ神戸空港には国際線が無いのか?その背景にある政治的圧力

関西圏においては関西空港のみ国際線就航が認められている

2022年9月に開催された関西3空港懇談会で神戸空港の国際化が合意された。開港から約16年という長い年月を経ての合意であり、地元自治体はもちろん、経済界・航空会社・利用者から期待の声が上がっている。

何故ここに至るまで神戸空港からは国際線が飛ばせなかったのか、その理由を解説する。

地方空港で唯一国際線が規制

関西地域において「国際線といえば関西空港」という認識が当たり前となっているが、全国的に見ると極めて異例であるということをご存じだろうか?実は、日本全国に90近い空港が存在するが、空港・施設面で大型機が就航できない・コミューター機の運航に限定された空港等を除き、国際線が飛んでいない空港は神戸・伊丹だけなのだ。

下記の表を見て頂きたい。これは2019年の国内線旅客数上位15空港の一覧であるが、神戸・伊丹を除いてこれら全ての空港に国際線が就航している。今や主要空港・地方空港問わず国際線が飛んでいるのは珍しい事ではなく、逆に神戸・伊丹に国際線が無いという事は全国的に見ても異例の事なのだ。

2019年国内線旅客数 上位15空港
順位空港名旅客数(万人)
1東京国際空港(羽田)6,678
2新千歳空港2,073
3福岡空港1,828
4那覇空港1,808
5大阪国際空港(伊丹)1,650
6成田国際空港764
7関西国際空港698
8中部国際空港667
9鹿児島空港566
10仙台空港346
11神戸空港336
12熊本空港332
13宮崎空港331
14長崎空港327
15松山空港305

首都圏においても、羽田空港・成田空港で際内分離の運用が長年続いていたが、2007年に羽田空港の再国際化の方針が示され、現在では羽田・成田両空港で国際線が運航されている。加えて、2010年には首都圏第3の空港となる茨城空港が開港。茨城空港にも中国路線を中心に国際線が就航している。

羽田空港や伊丹空港は、新空港(成田・関西)の開港を機に国際線が移行したという経緯が存在するが、開港時点から国際線の就航が規制された空港というのは神戸以外に前例がない。その背景には運輸省(現:国交省)と関西3空港懇談会の存在がある。

国交省・3空港懇談会の存在

以下の「大阪国際空港及び神戸空港における国際線の取扱いについて」「関西3空港の在り方について」と題された計3枚の文章を見て頂きたい。これは、神戸空港開港に際し、国交省がまとめた文章である。この内容を根拠として、神戸空港は国際線の就航が規制されているのだ。

大阪国際空港及び神戸空港における国際線の取扱いについて 別紙(出典:国交省)
大阪国際空港及び神戸空港における国際線の取扱いについて 別紙(出典:国交省)
関西3空港の在り方について 別添(出典:国交省)

実は「神戸空港からは事実上国際線を飛ばせない」というのは計画当初から決まっていたルールではない。国際線の厳格な取り扱いが決まったのは、神戸空港開港直前であった。当時、関西空港は路線の撤退が相次ぎ、旅客数が伸び悩んでいたことから、国交省や大阪府は神戸空港への国際線の就航に難色を示したのだ。

当初、神戸市は神戸空港における国際線の運航に関して、国際チャーター便の運航を可能とするなどの柔軟な運用を期待していた。しかし、開港直前に開かれた関西3空港懇談会において、国交省は前述の「大阪国際空港及び神戸空港における国際線の取扱いについて」というたたき台を提示。同懇談会も、国交省が提示した内容で合意し、開港直前にして当初の目論見が大きく外れることとなったのである。

神戸空港の存在に対しては、関西空港誘致を巡って未だに不信感を抱く国交省幹部も存在する。国際線の規制に留まらず、恣意的とも取れる運用規制が当然の如く続けられているのが現状なのだ。

【関西3空港懇談会とは】

神戸空港の開港を機に、3空港の在り方を議論する場として設けられたもので、関経連会長をはじめ、3空港の地元自治体である大阪府知事・大阪市長・兵庫県知事・神戸市長などがメンバーに名を連ねている。神戸・伊丹の運用規制の緩和は、この懇談会での合意が必要とされているが、未だに堺市・和歌山県が神戸・伊丹の運用規制緩和には慎重な姿勢を示しており、規制緩和の議論は殆ど進んでいない。

神戸空港国際化は関西飛躍の大きなカギ

先ほどの「大阪国際空港及び神戸空港における国際線の取扱いについて」という指針について、国交省はパブリックコメントを募集(2005年11月~12月)している。

この募集に対しては、伊丹・神戸空港での国際線規制に理解を示す声も寄せられた。しかし、一方で反対意見が多く寄せられ、両空港における国際化を望む声が根強いことを同時に証明する結果となっている。

また、その声は利用者だけに留まらない。航空アナリスト・航空会社・経済界からも神戸空港の国際化には多くの期待感が寄せられており、神戸空港が関西において『宝の持ち腐れ』となっていることは自明の理なのだ。以下、その声の一部を紹介する。

関西学院大の野村宗訓教授に聞く関西3空港の可能性
 世界的に航空需要はふくらんでおり、関西3空港が国際線でネットワークを張ることで、シナジー(相乗効果)を発揮できる。「パイの奪い合い」という旧態依然たる発想で、伊丹と神戸が海外に向かって閉じているのは残念だ。
 神戸空港は神戸市が「国際都市」を掲げてきたのに国際線がない。税関や検疫など国際線に必要な施設すら備えていない。世界的にみて、これはあり得ない。
 また、日韓関係の悪化や香港でのデモ活動で、関空と現地の路線に影響が出ていることからも、特定の航空会社や路線に依存するのはリスクが高い。伊丹や神戸にも国際線を入れることで、利用者の選択肢も増えるはずだ。

【関西の空(7)】ロンドンお手本 関西3空港の国際線ネットワーク(産経新聞)

大阪観光局 溝畑宏理事長
 「環境整備の観点から、伊丹より神戸空港に国際空港機能を持たせるのが現実的。発着回数は将来的に関西3空港で最低でも70万回程度への引き上げをすべき。」

論点 空港ビジネス将来像(毎日新聞)

■東京に対抗できる関西のウリとは?
佐山氏(SKY元会長) 地域の活性化というのは、人が沢山流れ込んで来るようにすることだと思うんです。その点、関西には、関西、伊丹、神戸、と空港が3つある。それにプラスして新幹線もある。例えば、神戸空港はすごく便利です。もし神戸空港と新神戸駅を直結できたら、新幹線沿線の人も神戸空港に来ます。飛行機で神戸空港に来た人もすぐに新幹線乗れます。神戸は海外の窓口になれるポテンシャルを持っているんです。

【UPDATE関西特別編】WESTが日本経済を牽引するために必要なことは?(news picks)

■阪急阪神HD角和夫会長「阪急のまちづくりと関西および兵庫・神戸への期待」講演
 訪日外国人が増える中で、関西の空港機能を強化するためには「2025年の大阪・関西万博までに神戸空港を国際化する必要がある」と強調した。

「神戸空港アクセス改善が最大の課題」阪急阪神HD角会長(神戸新聞)

このように、神戸空港の国際化には多方面から期待が寄せられており、神戸空港の国際化は「関西飛躍の大きなカギ」と言えるのだ。

滑走路長が2500mとなった理由

「神戸空港の滑走路(滑走路長2500m)は短いから国際線は就航できない」そういった声も稀に聞かれるが、これはミスリードな情報に他ならない。神戸空港より短い2000m滑走路を有する地方空港でも近距離アジア方面の国際線が就航していることが何よりの証拠である。

実は、中・近距離国際線の運航において、2500mという滑走路長は必要最低限の条件を満たしているのだ。また、B787・A350のような軽量素材を使った旅客機に限れば、さらに長距離の国際線運航も可能であり、設備面で国際化を阻むハードルは存在しない。「関西3空港懇談会での合意」が唯一のネックなのである。

ちなみに、神戸空港の滑走路長が2500mとなった背景には、運輸省の圧力が存在している。神戸市が当初計画していた神戸沖空港試案では、国際線の就航も見越して3000m滑走路で計画されていた。しかしながら、関西空港誘致のボタンの掛け違いから生まれた軋轢によって、運輸省は3000mという規模を許さず、2500mでの整備を余儀なくされたのだ。

神戸空港計画が第6次空港整備計画に盛り込まれた当時は、ジャンボジェットと呼ばれるB747型機が国内線を飛んでいた時期であり、国内線の運航を前提とするにしても、2500mという滑走路長には運輸省としてGOサインを出さざるを得なかったのであろう。国際空港として見ると2500mの滑走路長は決して長くはないが、航空機の性能が向上した現代においては国際旅客便の運航も十分可能となっている。滑走路長を2000mではなく2500mで整備できたという事は、不幸中の幸いとも言えるだろう。

「分散によるコスト増」は苦し紛れの言い訳

中国・四国地方から兵庫県まで広範囲を管轄する神戸税関

一部で、国際線を神戸・伊丹にも就航させる事はCIQ(税関・入国管理・検疫など出入国手続きに必要な施設の総称)や航空会社の拠点が分散して非効率だと主張する声もあるが、このような主張は苦し紛れの言い訳である。

CIQが分散することを非効率とするのであれば、全国各地の地方空港が国際化している現状をどう説明するのであろうか?また、関西において他に例を挙げると、神戸港と大阪港は隣接するがために、「大阪港のCIQは廃止して神戸港に一本化しましょう」といった話になるだろうか?そんな話は決して出てこないだろう。

需要があれば、近隣に複数のCIQが置かれるというのは別に珍しい話ではないのだ。

加えて、航空会社の拠点が分散して非効率という懸念は、利用者側が心配することではない。需要があれば航空会社は拠点を設けるし、需要が無ければ拠点を設けることはない。それは各航空会社が判断することであり、端から航空会社の懐を心配するというのも滑稽な話である。

国際貿易港の神戸港には元々大きなCIQ体制が備わっているのだ。神戸港を管轄するCIQのぶら下がり組織として、神戸空港にCIQが構築されると仮定すれば、国際化のハードルは他の地方空港に比べて相当低いと言えるだろう。

拠点分散によってコスト増に繋がるという懸念は、神戸空港の国際線規制を正当化するための言い訳でしかないのである。

入国管理局一覧
(出典:出入国在留管理庁)
税関一覧
(出典:財務省 税関)
検疫所一覧(出典:厚生労働省)

2025年から国際空港へ

2019年5月に開催された関西3空港懇談会において、神戸空港については概ね2025年までの取り組みとして「国際化を含む空港機能のあり方の検討」という方針が示され、2022年9月に開催された同懇談会では、正式に神戸空港の国際化(2025年から国際チャーター便の就航、2030年前後に国際定期便の就航)が合意されることとなった。

今まで「国際化」の「こ」の字すら盛り込むことが困難であった同懇談会の取りまとめに、具体的に「国際化」という文言が記載されたのは、地元自治体間の意識に雪解けが始まっているという表れであり、関西圏の航空政策は歴史的な転換点を迎えたと言えるだろう。

2018年には、台風により関西空港が水没し、関西エリアにおける国際線の玄関口がゼロとなる事態が発生した。このような事態から考えても、同一都市圏に国際空港が複数存在するという事は、バックアップという面でも非常に大切な事である。

国際チャーター便の運航が始まる2025年まで残された時間は多くはない。国際化に係るハード面の整備が急がれる。

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