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パイロットの知恵袋

【神戸管制部誕生!】目には見えない空域の話

道路と違って標識・看板もない空。その空には、細かい区分けが存在するということをご存じでしょうか?

ここでは、目には見えないけれども制約の多い『空域』について簡単に解説します。

そもそも空域って?

世界の空は一部を除き、飛行情報区(FIR)と呼ばれるエリアに区分されており、各国に存在する管制機関が分担して管制業務等を提供しています。

日本が管轄する空域は福岡FIRと呼ばれ、日本領土の上空(正確にはQNH適用区域内)は航空交通管制区として、太平洋の広い範囲も洋上管制区として日本の管制機関にカバーされているのです。

福岡FIR(出典:国交省 航空交通量の増大に対応した管制空域のあり方)

更に、航空交通管制区内には更に空域が設定されており、空港の半径5マイル(約9キロ)には航空交通管制圏(以下、管制圏)航空交通情報圏(以下、情報圏)、さらにその外側には進入管制区特別管制区といった空域が存在しています。

その他にも、飛行訓練や試験飛行を実施するための訓練・試験空域、射撃訓練を実施するための射撃訓練区域、自衛隊機の専用通路である回廊(コリドー)飛行制限区域飛行禁止区域などが存在し、空は目に見えない区分けがされているのです。

福岡FIRを断面で見ると、以下のようなイメージになっています。

福岡FIRの空域クラス分け概念図(出典:国交省 ATSシンポジウム資料)

旅客機はどんな空域を飛んでいる?

旅客機が出発地を離陸して目的地に着陸するまで、どのような空域を飛んでいるのでしょうか?

国土交通省が作成した以下のスライド(羽田空港を出発して福岡空港に到着するまでのイメージ)をご覧ください。

旅客機が離陸して着陸するまでのイメージ(出典:国交省 航空交通量の増大に対応した管制空域のあり方)

空港を離陸した旅客機は管制圏進入管制区に設定されたSID(標準計器出発方式)という経路に沿って出発。その後、航空交通管制区に設定された航空路を飛行し、目的地の空港へ向かいます。目的地の空港に近づくと、STAR(標準到着経路)という経路に沿って進入管制区を飛行、最後は再び管制圏に入域して着陸に至るのです。(スライドには描かれていませんが、進入管制区内には特別管制区という空域が設定されている事もあり、その場合には特別管制区も飛行することになります。)

小さな空港では空域が上記の例と異なり、管制圏や進入管制区が存在しない空港もあります。しかし、いずれにしても旅客機は多くの空域を通過して目的地に到着しているという事がお分かり頂けたのではないでしょうか?

空域再編!神戸管制部の誕生

従来、日本の航空交通管制区は4つのセクターに区分され、それぞれを管轄する機関として札幌・東京・福岡・那覇の航空交通管制部が航空管制を行ってきました。

しかし、平面的なセクター区分では、低高度の航空機(空港から出発した航空機や空港へ到着する航空機など)と高高度の航空機(空域を通過するだけの航空機など)を同時に取り扱う必要があります。そのため、管制が複雑・煩雑で、効率的とは言えない状況となっていたのです。

この課題を解決するため、国土交通省は空域を高高度と低高度に分離するという空域再編方針を決定。2018年度から段階的に、高高度の管制は福岡管制部に、低高度の管制は東京管制部と新設する神戸管制部に移管し、札幌管制部と那覇管制部は廃止されることになりました。(既に、那覇管制部が管轄していた空域は神戸管制部に移管が完了し、2018年度をもって那覇管制部は廃止。空域再編完了は2024年度を目指しています。)

管制空域の上下分離イメージ(出典:国交省 航空交通量の増大に対応した管制空域のあり方)

空域再編に突如として登場した『神戸航空交通管制部』。実は、神戸市西区に設置されていた神戸航空衛星センター(運輸多目的衛星の監視・制御を担っていた機関)が役割を終える予定となっていたことから、施設の有効活用も兼ねて改修・新設されることとなったのです。

今後、神戸に新設された神戸航空交通管制部は、西日本の空の安全を担っていくことになります。

空港周辺は自由に飛べない!

ここまで、旅客機の視点で空域を見てきましたが、プライベート機など(有視界飛行方式で飛行する航空機。以下、VFR機)の場合はどうでしょうか?

実は、旅客機などのIFR機に比べ、VFR機が自由に飛べる空域には大きな制約があります。

例えば、先程紹介した特別管制区管制圏です。これらの空域は空港を発着する旅客機の運航を円滑にする目的で設定されています。そのため、VFR機はこれらの空域を自由に飛行することができないのです。(特別管制区については基本的にVFR機の飛行が禁止されています。)

国内で最も交通量が多い羽田空港の管制圏(丸枠の区域)と特別管制区(丸枠以外の区域)
広範囲でVFR機の飛行を制限していることが分かる。(出典:航空路誌)

ちなみに、比較的交通量の少ない地方空港では、管制圏・特別管制区などは設定されず、情報圏のみが設定されています。この「情報圏」は航空管制官による管制が行われていない空域で、VFR機は比較的自由に飛行することが可能です。

IFR機とVFR機

殆どの旅客定期便は計器飛行方式IFR:Instrument Flight Rules)という飛行方式で運航されています。計器飛行方式とは、管制機関に事前承認された飛行計画に従うとともに、常時管制機関の指示に従う飛行方法で、基本的に外部の視界に頼ることなく飛行することが出来ます。この方式で飛行する航空機をIFR機と呼びます。
対して、多くのプライベート機は有視界飛行方式VFR:Visual Flight Rules)で飛行しています。有視界飛行方式とは、比較的自由に飛行できる反面、雲中などは飛行できず、外部の視界が確保されていることが条件となっている飛行方式です。この方式で飛行する航空機をVFR機と呼びます。

神戸空港周辺の空域は?

神戸空港の管制圏は北側が上限2,000ft・南側は上限2,500ftとなっており、通常の管制圏(民間機が発着する空港では上限3,000ft)と比較すると歪な形となっています。

これには勿論理由があります。実は、神戸空港の管制圏南側には関西空港の特別管制区(下限2,501ft)が存在し、また北側は東西に往来するVFR機が多いエリアとなっているため、神戸空港では管制圏の上限高度を敢えて削っているのです。

ちなみに、国内の他の空港では、米軍基地が隣接した那覇空港も管制圏の上限高度は低く設定されており、上限高度は1,999ftとなっています。(2,000ftは管制圏外)

神戸空港の管制圏
北側上限は2,000ft、南側上限は2,500ft。(出典:航空路誌)

また、神戸空港西側には神戸特別管制区が設定されており、VFR機は自由に飛行することができません。地方空港で特別管制区が設定されることは極めて珍しく、関西エリアにおける交通量の多さを反映していると言えるでしょう。

神戸特別管制区(出典:航空路誌)
関西特別管制区(出典:航空路誌)
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