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管制官のミスか?パイロットの聞き間違いか?日航516便衝突事故

本日2日、羽田空港で日本航空516便(以下、日航機)と海上保安庁の飛行機(以下、海保機)が衝突・炎上するという近年稀に見ない航空事故が発生した。滑走路上で航空機同士が衝突するという事故は近年では珍しく、今回のような事故が発生した事は非常に衝撃的である。

滑走路上で航空機同士が衝突した事故としては、テネリフェ島でのジャンボ機の正面衝突事故が有名である。これは航空従事者であれば誰もが知っている事故で、パイロットの離陸許可の聞き間違いに起因して500名以上が犠牲となっている。

この事故を機に、離着陸に使用する管制用語やルール等が見直され、航空管制が大きく変わるきっかけとなった。

離着陸機に発出される指示と管制用語の一例

出発機・到着機には、航空管制官より以下のような用語で管制指示(離着陸許可)が発出される。滑走路への誤進入等を防ぐため、似たような用語は使用されていない。

特に、テネリフェ島の事故を契機として”takeoff”という用語は「離陸許可」「離陸許可の取り消し」以外には使用されなくなっており、例えば管制官が出発機に「出発準備が整っているか」を尋ねる際には、”ready for departure?”などと交信される。

【出発機】

管制用語意味
“cleared for takeoff”離陸を許可します
“hold short of runway”滑走路の手前で待機して下さい
“line up and wait”滑走路に進入して待機して下さい

【到着機】

管制用語意味
“cleared to land”着陸を許可します
“continue approach”滑走路への進入を継続して下さい
(まだ着陸許可が出せない状況下で、滑走路への進入を継続させる場合に使用される)
“go-around”着陸復行して下さい
(着陸をやり直して上昇して下さい)

今回の事故では、到着機である日航機と出発機である海保機が滑走路上(もしくは取り付け誘導路上)で衝突していることから、パイロットによる管制指示(離着陸許可)の聞き間違い、もしくは管制官の管制指示にミスがあった可能性が考えられる。

前者の「パイロットによる管制指示(離着陸許可)の聞き間違い」による滑走路誤進入は、全国で一定数発生しており、重大インシデントとして過去にも多数報告されている。特に不慣れな自家用機等で報告が多い。

通常、滑走路へ最終進入中の到着機には、タイミングは違えど順次「着陸許可」が発出される。一方、出発機には到着機の着陸に支障が無いタイミングで「滑走路への進入許可」「離陸許可」が発出され、到着機が迫っている場合には「滑走路手前での待機」が指示される。つまり、出発機がこの管制指示を聞き間違えて滑走路へ進入した場合、事故の引き金となり得るのだ。事実、「管制指示の聞き間違い」による滑走路への誤進入事例の殆どは出発機に起因している。

今回、出発機にあたるのは海保機であるが、当該機・乗員は羽田空港の基地に所属していたとみられ、管制圏での運航・管制に不慣れであったとは考えにくい。

また、後者の「管制側のミス」としては、管制官が離陸許可と着陸許可を同時に出していたというケースも考えられる。しかし、これも可能性としてはかなり低い。

実は、管制官が同一滑走路を使用する航空機に離陸許可と着陸許可を同時に出すケースはある。しかし、これは決められた条件下(出発機の離陸滑走が始まっていることや、各機の管制間隔が保持できること等)で意図的に発出されているものであり、出発機と到着機が衝突・異常接近する状況に陥ることは通常有り得ないのだ。(万が一、離着陸許可の発出後に衝突・異常接近が危惧されるような状況となった場合は、出発機には「離陸許可の取り消し」、到着機には「着陸復行(着陸をやり直して上昇させる事)」が指示される。)

ちなみに、我々乗務員はパイロットセンスとして、たとえ管制官から離陸許可・着陸許可を受けていたとしても、最終進入経路上に他機が迫っていないか、滑走路上に他機が居ないかを目視で確認しながら離着陸を行っている。そのため、管制官の指示に間違いがあったとしても、衝突という最悪の事態は中々起こりづらいのだ。(気象条件によっては、滑走路全体が見えない事もあり、そのような場合に限っては管制官の指示だけが頼りである。また、離陸時にはTCASも他機の把握に役立てている。)

※TCAS:旅客機に装備されている航空機衝突防止装置の事。他機の位置・高度等が表示され、航空機同士の衝突回避に役立てられている。

今回、事故が発生した時間帯の羽田空港周辺の天候は晴れ、視程も10キロ以上あり、夜間といえども互いの航空機は十分視認が可能な状況にあった。また、風も弱く航空機の操縦を困難にする天候でもない。そのため、先程挙げたような「管制指示の聞き間違い」があったとしても、「管制指示のミス」があったとしても、両機はお互いの存在に気付けた可能性は高く、現時点で今回の事故は不可解な点が多い。

今回、日航機側に犠牲者が出なかったことは不幸中の幸いであるが、海保機側では乗組員5名が死亡し、1名が重体と報じられている。一刻も早い原因究明と再発防止策の策定が待たれる。

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