コロナ禍で進む仕事のテレワーク化。その流れを受けている訳ではありませんが、空港においても遠隔運用が進みつつあります。
ここでは、航空機の運航を裏で支える『運航情報業務』の集約・再編と、それに伴って進められている空港の『リモート化』について簡単に解説します。
再編される業務拠点
現在、全国8か所に飛行援助センター(FSC : Flight Service Center)と呼ばれる機関が設置されており、飛行計画変更などの運航援助や、安全航行に必要な情報の提供、後述するRAG空港の運用などを担ってきました。
しかし、国管理空港の民営化などに伴って、業務の更なる効率化が求められることになり、業務拠点が再編されることになったのです。(2021年10月より順次)
再編後は、羽田・関西の2か所に運航拠点(FAIB : Flight and Airport Information BASE)が、新千歳・大阪・南日本(福岡または那覇で検討中)の3か所に対空センターが設置されることになります。
特に、新しく誕生するFAIBでは、運航関係者・空港管理者等に対する幅広いサポートが可能となるほか、手続き簡素化による各種調整時間の短縮が見込まれています。
・飛行計画の通報に関する事務
・気象情報、航空情報等航空機の運航に必要な情報の提供
・航空機の運航状態を監視し、状態に応じた運航者への支援及び捜索救難機関との調整
・運航者及び空港管理者等からの運航・国内空港の運用に関する問い合わせ対応(ヘルプデスク)
・発着枠が定められた空港における枠の確保に係る調整
・国内空港の駐機場及び空港使用に係る調整支援
・遠隔から無線電話による航空機への情報提供
・飛行場及びその周辺を飛行する航空機に対する情報提供等(飛行場対空援助業務)
・飛行中の航空機に対する情報提供等(広域対空援助業務)
FSCで実施されてきた業務とは
今後、再編によって姿を消すことになる飛行援助センター(FSC)は以下の業務を担ってきました。
- 運航援助情報業務
- 航空情報の作成、提供
- 飛行計画の受付、審査
- 運航監視・捜索救難調整
- 場外離着陸場の許可
- ランプインスペクション
- ATIS及び広域情報の放送
- 飛行場情報業務
- 飛行場面の管理・運用
- スポットの管理・運用
- 制限区域内の安全管理
- 鳥害対策
- 飛行場及びその周辺の障害物件の把握及び必要な措置
- 対空援助業務
- 飛行場リモート対空援助業務(RAG空港の運用)
- 航空交通情報の提供
- 管制承認の中継など
- 広域対空援助業務
- 気象に関する情報の提供
- 航空保安施設等の運用状態に関する情報の提供
- 航空機からの報告(PIREP)の受理及び提供
- VFR機の位置報告の入手及び関係機関への提供
- 航空交通規制その他飛行中の航空機に影響を及ぼすと認められる情報の提供
- 飛行場リモート対空援助業務(RAG空港の運用)
このように、FSCは非常に幅広い業務を担っていたという事がお分かり頂けると思います。加えて、拠点が全国8か所に分かれていたことから、運航調整の内容によっては申請先が複数の窓口に及び、手続きが煩雑になっていたのです。
TWR空港・RADIO空港・RAG空港とは?
空港は「空港法」という法律によって、拠点空港・地方管理空港・共用空港などに分類されます。これは、空港の地理的重要度などに基づいた分類ですが、拠点空港であっても利用者数・運航便数はピンからキリまで様々です。
しかし、「飛行場管制」という視点で空港を分類すると、空港の忙しさ(運航便数の多さ等)が概ね反映されて浮かび上がってきます。
以下はその分類です。
- TWR空港…飛行場管制業務が実施されている空港の事を言います。航空交通量の多い空港や自衛隊基地などが該当します。
- RADIO空港(レディオ空港)…飛行場対空援助業務が実施されている空港の事を言います。比較的航空交通量が少ない空港が該当します。
- RAG空港(リモート空港)…飛行場リモート対空援助業務が実施されている空港の事を言います。RADIO空港より更に航空交通量が少ない空港が該当します。
上記の通り、比較的航空交通量の多い空港はTWR空港に分類され、航空管制官(以下、管制官)による飛行場管制業務が実施されています。
一方、RADIO空港には代わりに航空管制運航情報官(以下、情報官)が配置され、航空機の運航援助を行っています。
情報官は、管制官のような管制指示を伴う飛行場管制業務は実施できず、管制承認の伝達・滑走路の状況(例えば、滑走路上に他の航空機がいない事など)や空港周辺の交通情報の提供等を主な業務としています。そのため、RADIO空港・RAG空港では着陸許可・離陸許可などが発出されませんが、情報官が提供する空港内・周辺の航空交通情報等によって航空機の安全運航は保たれているのです。
さらに、RAG空港では管制官も情報官も管制塔には配置されておらず、空港内に設置されたカメラの映像をもとに、情報官が遠隔で業務に当たっています。これが先ほど登場した「飛行場リモート対空援助業務」です。(今後は、対空センターに配置される情報官がその役割を担います。)
新たに誕生する『リモートRADIO空港』
先程ご紹介したRAG空港でのカメラによる遠隔運用。航空局はこの運用方法をRADIO空港にも広げ、将来的には全てのRADIO空港に導入することを検討しています。
その皮切りとして動き出したのが、奄美空港の『リモートRADIO空港』化です。現在、奄美空港はRADIO空港として運用されていますが、2021年10月からはRAG空港と同様のカメラによる遠隔運用に切り替えられるのです。(実質的なリモート空港化)
また、従来RAG空港における無線交信で使用されていた「リモート」のコールサインも、同じく10月から「レディオ」に変更されることから、RADIO空港・RAG空港の分類が今後統一される可能性も読み取れます。
これらのことから、将来的には『管制官が配置された空港』と『遠隔運用の空港』に二分される可能性が高く、管制官はもちろん情報官も存在しない『遠隔運用の空港』は今後一層増えていくことでしょう。
小規模な地方空港において、『管制塔が無人となる』未来はそう遠くないのかもしれません。