25日、第13回関西3空港懇談会が大阪市内で開かれ、関西3空港の運用状況や今後の関西空港の振興策等が議論された。今回の議題で特に大きな注目を集めたのは、航空局から報告された新しい飛行経路案である。
ここでは、航空局から公表された資料をもとに新しい飛行経路の概要について紹介する。
運用拡大に不可欠な新しい飛行経路
前回の関西3空港懇談会では、「関西空港では2025年までに1時間あたりの発着能力を60回に引き上げ、2030年代前半には年間発着枠30万回を目指す」「神戸空港では1日の発着枠を160回(国内線120回+国際線40回)に拡大する」という2つの数値目標が合意されていた。
しかし、関西空港・神戸空港での運用拡大を実現するためには、あるハードルをクリアする必要があった。それが飛行経路の問題である。
現在の飛行経路では、関西空港における1時間あたりの発着能力は46回、年間発着枠は23万回とされ、神戸空港においても飛行経路に制約があることから、大幅な増枠は難しい状況とされていた。そのため、懇談会側から航空局に対し、飛行経路を見直すよう要望が出されており、昨年から国の検討委員会で新飛行経路について検討が進められてきたのである。
現在の飛行経路の制約・問題点
関西空港・神戸空港の現在の飛行経路には様々な課題があり、今後の運用拡大を図るためには見直しが不可欠であった。主な制約・問題点は以下の通りである。
神戸空港
神戸空港の飛行経路は、環境対策のために海上に限定されているほか、関西空港の飛行経路との干渉を避けるため、出発便も到着便も明石海峡上空を通過するという大きな特徴を持つ。
そのため、明石海峡上空は交互通行のような状況(高度差によって管制間隔を確保することも可能なため、正確には交互通行という訳ではない。)となっており、現在の飛行経路では大幅な増便が難しい状況にある。今後の運用拡大のためには、飛行経路の見直しが避けられない状況が続いていたのだ。
関西空港
関西空港はオープンパラレル滑走路を有しており、本来は2本の滑走路を独立して離着陸に供することが可能であるが、現状は飛行経路を海上に限定して設定しているため、両滑走路を独立して運用することは困難な状況にある。そのため、陸側のA滑走路を離陸用・海側のB滑走路を着陸用とした運用(専用滑走路運用方式)が行われており、オープンパラレル滑走路のメリットを殆ど生かせていない。
また、陸域の飛行高度にも厳しい制限が設けられていることから、大阪湾上空で旋回して高度を獲得する経路が設定されるなど、大阪湾上空の混雑に拍車を掛けている現状がある。
示された新しい飛行経路案
この度開催された関西3空港懇談会では、航空局から関西空港・神戸空港の新しい飛行経路案が示された。その大きな柱となっているのは「新しい飛行経路の設定」と「陸域通過高度の引き下げ」で、関西・神戸の各空港における新しい経路案はそれぞれ以下のような内容とされている。(今後の調整により、新経路案は変更となる可能性もある。)
神戸空港
新しい飛行経路案では、神戸空港の出発経路を淡路島北部に移し、出発経路と到着経路を分離させることが示されている。これにより、出発機と到着機が干渉するケースが大幅に減少するため、管制処理能力は大きく向上することになる。
ただ、RWY27(西向きへの着陸)への計器進入は引き続き設定されないとみられ、強い西風が吹いている場合については、現在と同様の周回進入(サークリングアプローチ)を前提とした運用が続くと想定される。大まかに言えば、伊丹空港における運用と同様のイメージである。(伊丹空港もRWY14L/Rに計器進入が設定されていないため、強い南東風が卓越している場合には周回進入が必須となる。)
※出典:関西空域における飛行経路技術検討委員会中間とりまとめ
※出典:関西空域における飛行経路技術検討委員会中間とりまとめ
関西空港
新しい飛行経路案では、淡路島南部への出発・到着経路の新設や陸域通過高度の引き下げ等が示されている。これにより、大阪湾上空での神戸・伊丹発着便との輻輳も減少するため、管制上の処理能力向上が期待される。
また、出発機については離陸後すぐに旋回して分岐する経路とすることで、所定の管制間隔を早期に確保することが可能となる。そのため、旋回出発経路を大阪湾上に設定することを目的に、B滑走路を離陸用に、A滑走路を着陸用に変更。離陸から陸域到達までの距離も短くなることから、陸域通過に設定された高度制限の緩和も予定する。
専用滑走路運用方式は継続するものの、主に出発経路に手を加えることで発着回数の引き上げを目指す方針だ。
※出典:関西空域における飛行経路技術検討委員会中間とりまとめ
※出典:関西空域における飛行経路技術検討委員会中間とりまとめ
求められる丁寧な住民説明
現行 | 見直し案 | |
---|---|---|
関西空港 出発 | 8,000ft以上 | 5,000ft以上 |
到着 | 8,000ft以上 7,000ft以上(AWAJIポイントまで) 4,000ft以上(AWAJIポイント以降) | 4,000ft以上 |
神戸空港 出発 | 設定なし | 3,000ft以上 |
関西空港は飛行経路を海上に限定するという前提で計画された歴史があるが、徐々にこの前提は崩され、一部の陸域飛行は解禁されて現在に至っている。そして、今回示された新しい飛行経路案では、淡路島を中心として陸域飛行エリアの拡大と陸域通過高度の引き下げが想定されており、飛行経路直下の住民からは懸念の声が上がることも予想される。
一昔前に比べると、航空機の騒音は徐々に低減しているため、陸域飛行を柔軟に認めていくことは空港の利活用を図っていく上で必要不可欠であろう。しかし、飛行経路直下の住人にとっては、多かれ少なかれ騒音が発生することもまた事実である。今後、試験飛行による騒音調査や経路直下の住民に対しての丁寧な説明が求められる。
今後のスケジュール
航空局から新しい飛行経路案が公表
大阪府・兵庫県・和歌山県が合同で検証委員会を立ち上げ
騒音分析や新経路の妥当性についての検証(2023年内を目途)や住民・自治体への説明等
新しい飛行経路の導入に関する合意のとりまとめ
関西空港・神戸空港での段階的な発着枠拡大
環境検証委員会の立ち上げにあたり、試験飛行による騒音調査等も実施されるとみられるが、現時点では詳細な飛行経路・運用方法等は公表されていない。今後、詳細が明らかとなり次第、その内容について解説する。