関西3空港で着陸の気象条件が最も厳しい!?伊丹空港の雑学

関西3空港の中で最多の国内路線網を有する伊丹空港。かつては関西における国際線の玄関口を担っていたことから、正式名称は今も大阪”国際空港”です。

かつては立派な国際空港だった伊丹空港ですが、実は関西3空港で着陸に必要な気象条件が最も厳しいという事をご存じでしょうか?

ここでは飛行機の着陸に必要な空港施設等に着目し、伊丹空港に関する雑学をご紹介します。

目次

滑走路長・ILSカテゴリーの比較

空港によって滑走路の長さが違うという事をご存じの方は多いと思いますが、飛行機が着陸できる気象条件も空港(さらには滑走路ごと)によって違うということは意外と知られていないのではないでしょうか?

着陸に必要な最低気象条件は、計器進入の種類(精密進入・非精密進入など)による差はもちろん、整備されているILSのカテゴリーの違いによっても左右されます。

※ILS(計器着陸装置)…滑走路からの垂直・水平方向の偏移情報を示す電波を用いて、飛行機を滑走路まで誘導するシステムの総称。精度によってカテゴリー1からカテゴリー3まで区分されており、カテゴリー3のILSは最も悪条件の気象状態で着陸が可能となる。

では、実際に主要空港と関西3空港の滑走路長やILSカテゴリーを比較してみましょう。

新千歳空港
滑走路長ILSカテゴリー
01R/19L3,000m01R1
19L1
01L/19R3,000m01L1
19R3
成田空港(新東京国際)
滑走路長ILSカテゴリー
16R/34L4,000m16R3
34L1
16L/34R2,500m16L1
34R1
羽田空港(東京国際)
滑走路長ILSカテゴリー
16R/34L3,000m16R1
34L1
04/222,500m04
221
16L/34R3,360m16L1
34R3
05/232,500m05
231
中部空港(中部国際)
滑走路長ILSカテゴリー
18/363,500m182
363
福岡空港
滑走路長ILSカテゴリー
16/342,800m161
341
那覇空港
滑走路長ILSカテゴリー
18L/36R3,000m18L
36R1
18R/36L2,700m18R1
36L1
関西空港(関西国際)
滑走路長ILSカテゴリー
06R/24L3,500m06R2
24L2
06L/24R4,000m06L2
24R2
伊丹空港(大阪国際)
滑走路長ILSカテゴリー
14R/32L3,000m14R
32L1
14L/32R1,828m14L
32R
神戸空港
滑走路長ILSカテゴリー
09/272,500m091
27

上記の表を見て頂ければ一目瞭然ですが、伊丹空港は3,000mという立派な滑走路を有しているものの、神戸空港と同様にILSは片側にしか整備されておらず、ILSカテゴリーもCAT1となっています。

国内の主要空港でも、福岡・那覇ではILSカテゴリーはCAT1であり、主要空港でも珍しい訳ではありません。しかし、「国際空港」という名が付くような空港では、悪天候による欠航が発生すると影響が大きいことから、世界的にも殆どの空港でCAT2以上のILSが整備されています。

現在、関西エリアで国際線が就航できる空港は関西空港に限定されているため、伊丹空港は名ばかり”国際空港”ではありますが、伊丹空港の正式名称が大阪”国際空港”であることを考えれば、実は設備面では簡素で珍しい空港なのです。

【視程100mでの着陸!CATⅢ運航とは?】
ILS進入にはCATⅠ・CATⅡ・CATⅢと3つのカテゴリーが存在し、それぞれ運航できる気象条件が異なります。(以前はCATⅢについて、更にCATⅢa・CATⅢb・CATⅢcと細分化されていましたが、現在はCATⅢにカテゴリーが統合されました。)
中でも、CATⅢは滑走路視距離100mという厳しい条件での着陸が可能で、霧が出やすい空港(熊本・広島・成田など)では、CATⅢILSが悪天候による欠航率を低減しています。
しかしながら、CATⅡ運航やCATⅢ運航はどの航空会社・空港でも実施できるわけではなく、飛行機や空港が対応していることはもちろん、パイロットも特別な訓練が必要となるなど、実施できる航空会社・空港は限られます。

長さも異なる伊丹空港の進入灯

羽田空港RWY22の進入灯(右下の赤い構造物。写真は消灯した状態。)

神戸空港のILSカテゴリーもCAT1で同じ設備なのだから、タイトルのように伊丹空港が「関西3空港で着陸の気象条件が最も厳しい」訳ではないのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

実は伊丹空港の設備で、他の空港と異なるものがもう1つあります。それが進入灯の長さです。

進入灯とは滑走路の延長線上に設置されている灯火のことで、ILS進入などの精密進入が行われる滑走路には、長さ900mの標準式進入灯(PALS)が配置されています。しかし、地形・敷地の制約などから進入灯の長さが短縮されるケースがあり、伊丹空港も敷地の制約を受けて進入灯の長さは450mに短縮されているのです。

この進入灯が短くなると、着陸に必要となる滑走路視距離が引き上げられ、より良い気象条件が求められる(着陸できる気象条件が厳しくなる)ことになります。そのため、伊丹空港は関西3空港で着陸の気象条件が最も厳しくなっているのです。

※滑走路視距離(RVR)…滑走路上でパイロットが滑走路灯などを視認できる距離

伊丹空港の標準式進入灯は450mに短縮されている(出典:航空路誌)
神戸空港ILS09の最低気象条件はRVR550m
(出典:航空路誌)
伊丹空港ILS32Lの最低気象条件はRVR700m
(出典:航空路誌)

片側のみの進入方式

伊丹空港北側には北摂山系・六甲山系が迫っており、北側への出発・到着経路は設定されていない

主要空港では珍しく伊丹空港にはILSが片側にしか整備されていないという事は既に触れましたが、これは地形の関係上仕方の無いことでもあります。

ILS進入では、滑走路に対して直線的に進入する経路を設定しなければなりませんが、伊丹空港の北側には北摂山系・六甲山系が迫っており、直線経路を設定することが出来ません。そのため、ILS進入は南側(RWY32L)からの着陸に限って設定され、北側(RWY14L/R)からの着陸に関しては周回進入が実施されているのです。

また、滑走路の使用方向は本来風向きによって(飛行機に正対する風となるように)変わりますが、伊丹空港においては事情が異なり、一定程度以下の背風(飛行機の後方から吹く風)であれば、ILS進入が行われることが多いというのも特徴です。

周回進入は、ILS進入に比べて更に良い気象条件が求められる(着陸できる気象条件が更に厳しくなる)こと、パイロットの負荷が大きいこと、管制上の効率が落ちることなどから、実施されるケースは珍しく、この運用方法は出入経路が西側に限られた神戸空港においても共通しています。

周回進入に関しては、以下の記事で触れていますのでご覧頂ければ幸いです。

気象特性は比較的恵まれ、就航率は高い

以上、伊丹空港の航空保安施設や進入方法等について紹介してきましたが、如何でしたでしょうか?

関西3空港の中でも、伊丹空港は数字上の気象条件が最も厳しい空港であることは、ここまで述べた通りです。しかし、大阪平野では霧が出にくいこと、横風制限値を超えるような強風は稀であることなどから、伊丹空港の就航率(悪天候で欠航した便を全運航便から引いて算出される割合)は全国的にも上位に位置しています。

こういったことを考えると、伊丹空港は必要最低限の設備で利便性を兼ね備えた都市型空港として立派に機能していると言えるのではないでしょうか?

時には廃港論が沸き起こり、”国際空港”としては珍しく簡素な作りとなっている伊丹空港ですが、関西を代表する主要空港の地位は今もなお揺るいでいません。

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