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パイロットの知恵袋

【海面スレスレ】神戸空港のサークリングアプローチとは?空港への進入方法はこんなにある!

神戸空港へ周回進入中のJAL機(2010年撮影)

神戸空港に着陸する際、海上スレスレを飛行して怖かったという声が時々聞かれます。

これは周回進入(サークリングアプローチ、またはミニマムサークルとも呼ばれます。)と呼ばれるもので、数ある進入方法の中でも比較的難易度が高く、我々パイロットも非常に神経を使う進入方法です。

実は、周回進入は神戸空港唯一の進入方法というわけではなく、全国殆どの空港で存在しています。しかし、周回進入はパイロットの負担が大きい事・管制効率が悪い事などから、実施されることは少なく、実際には特定の空港でのみ実施されることが殆どです。(国内の空港では、神戸空港の他に宮崎空港・松山空港・伊丹空港などでも地形的な制約を受けるため実施されることがあります。)

ここでは、神戸空港で実施される周回進入をはじめ、空港への進入方法について解説しています。

『進入』って?

着陸間際の飛行機

目的地へと航行している飛行機は、やがて空港へ向けて『降下』を開始し、その後空港へ『着陸』するというのは誰しもが簡単にイメージ出来る事かと思います。しかし、パイロットの世界では、この『降下』と『着陸』の間に、ある大事なフェーズが存在しています。それは『進入』です。

この『進入』というフェーズは『着陸へ向けた操作を開始し、飛行機が滑走路末端を通過するまで』の段階を意味します。この『進入』中に飛行機はフラップ・ギアを出し、減速しながら滑走路に近づいて行くのです。

具体的なイメージとして捉えにくいかもしれませんが、どの飛行機も『進入』という大切なフェーズを経て着陸することになります。そして、この『進入』方法には様々な種類が存在します。

殆どの空港は視界ゼロでも対地60mまで降下できる!

『進入』から『着陸』に至るまで

飛行機が空港へ『進入』するためには、安全上の観点から一定以上の気象条件が必要とされ、空港毎・進入方式毎にその値が定められています。

その気象条件を満たした場合のみ、飛行機は空港へ向けて『進入』することができ、決心高(精密進入で着陸の可否を判断する対地高度)で着陸するための条件(進入灯が視認できる事など)が揃っていれば滑走路に『着陸』することが出来るのです。

滑走路手前にある赤色の構造物が進入灯(写真は消灯した状態)

後述しますが、殆どの空港にはILSという施設が整備されており、たとえ進入中に視界ゼロであったとしても、滑走路視距離(滑走路上の視程)が550m以上という気象条件を満たせば、飛行機は対地200ft(約60m)まで安全に進入することが可能となっています。(空港周辺の地形や空港の設備によっては、進入可能な高度が対地200ftから引き上げられる事もあります。)

ここからはILSを利用した進入方法をはじめ、様々な『空港への進入方法』についてご紹介します。

空港への進入方法一覧!

空港への進入方法は、主に以下のように分類されます。(日本における分類。国際基準での分類とはやや異なります。)

  • VFR機(有視界飛行方式で飛行する航空機):パイロット自身で経路(場周経路)を取って飛行し着陸する。
  • IFR機(計器飛行方式で飛行する航空機):以下の『計器進入』もしくは『目視による進入』で着陸する。
    • 計器進入
      • 精密進入
        • ILSアプローチ
        • PARアプローチ
      • 非精密進入
        • VORアプローチ
        • LOCアプローチ
          • LOCアプローチ
          • LDAアプローチ
        • RNP(LNAV)アプローチ
        • ASRアプローチ(民間機では通常行われない)
        • NDBアプローチ(民間機では通常行われない)
        • TACANアプローチ(民間機では通常行われない)
      • APV
        • RNP(Baro-VNAV)アプローチ
        • RNP ARアプローチ
    • 目視による進入
      • ビジュアルアプローチ(視認進入)
        • 視認進入
        • 経路指定視認進入
      • コンタクトアプローチ(目視進入)
      • サークリングアプローチ(周回進入)

これだけでも多くの進入方法があるとお分かり頂けたかと思いますが、海外ではマイクロ波を利用した進入方法など、更に進んだ技術が実用化されています。ここからは、旅客機(一般的な旅客便はIFR機として運航されています。)が実施する『計器進入』と『目視による進入』について、もう少し詳しく解説します。

計器進入

計器進入は、その精度毎に『精密進入』と『非精密進入』そしてその中間に位置付けられる『APV』に分類されています。

精密進入

進入中の飛行機が垂直方向と水平方向のガイダンス(偏移情報)を得られる進入方法を『精密進入』と呼びます。3次元的に飛行機の位置情報を得られるため、精度の高い進入が可能となります。

ILSアプローチ
ILSを構成するGS(グライドスロープ)アンテナ
ILSを構成するLOC(ローカライザー)アンテナ

ILSアプローチは、ILS(計器着陸施設)を利用する進入方法で、離島空港など小さな空港を除き、殆どの空港で実施されています。

滑走路に対する垂直方向の偏移情報を示すGS(グライドスロープ)と水平方向の偏移情報を示すLOC(ローカライザー)の2種類の電波を利用します。

ILSは1~3のカテゴリーが存在し、カテゴリー3のILSは最も精度が高く、わずか100mの視程(滑走路視距離)でも着陸が可能となります。しかし、カテゴリー2,3のILSは全ての空港に整備されているわけではなく、また特別な許可が必要な航行に分類されているため、実施可能な航空会社が限られています。

ILSカテゴリー必要な滑走路視距離
(滑走路上の視程)
決心高
(着陸の可否を判断する対地高度)
備考
CAT 1RVR 550m DH 200ft
CAT 2RVR 300mDH/RA 100ft特別な方式による航行(特別な許可が必要
CAT 3RVR 100m特別な方式による航行(特別な許可が必要
自動操縦を前提とした進入・着陸
ILSカテゴリーの比較(設備上の制約が無い標準的な設定値)
PARアプローチ
空港監視レーダー(ASR)等配置図(出典:国土交通省)

PARアプローチは、PAR(精測進入レーダー)を用いて、管制官が飛行機を滑走路まで誘導する進入方法です。分類上は、精密進入とされていますが、管制官の技量・気象状況等によっても誘導の精度は大きく左右されます。

パイロットは進入中に無線を聴取し、数秒間隔で出される管制官の肉声指示(機首方位を〇度に、降下率を深く・浅くなど)に従って滑走路まで誘導を受け、最終的に進入灯や滑走路を視認して着陸します。

現在では、自衛隊共用空港以外では殆ど実施されていませんが、民間空港では唯一那覇空港においてPARアプローチが現存しています。(かつては伊丹空港や名古屋空港等でも実施されていました。)

非精密進入

進入中の飛行機が水平方向のガイダンス(偏移情報)のみを得られる進入方法を『非精密進入』と呼びます。2次元的にしか飛行機の位置情報を得られないため、空港へ進入できる(着陸の可否を判断する)高度は『精密進入』よりも高くなります。

離島空港など小さな空港では精密進入が設定されておらず、非精密進入のみが設定されている場合があります。

VORアプローチ
滑走路脇に設置されているVOR/DME

VORアプローチは、VOR(超短波全方向式無線標識施設)の電波を利用する進入方法です。

殆どのVORにはDME(距離測定装置)が併設されており、飛行機はこれらの電波を利用することで、VOR/DME局からの方位・距離を知ることが出来ます。

VORは滑走路への誘導のみを目的とした無線施設ではないため、主に滑走路脇などに設置されています。そのため、滑走路への進入精度は後述のLOCアプローチと比べて劣ります。

LOCアプローチ

LOCアプローチは、LOC(ローカライザー)の電波を利用する進入方法です。

LOCは基本的に滑走路延長線上に設置されており、滑走路方位に対する水平方向の偏移情報が提供されます。

特殊な事例として、羽田空港では、LDAアプローチ(直線進入に該当しないLOCアプローチ)が実施されています。

RNP(LNAV)アプローチ

RNP(LNAV)アプローチは、GPSの信号を利用する進入方法です。(これに垂直方向のガイダンスを組み合わせたものとして、後述するRNP(Baro-VNAV)アプローチが存在します。)

GPSを利用した航行は徐々に広まりつつありますが、地上からの電波を用いる他の進入方法に比べて信頼性・冗長性などに課題があり、慣性航法装置や地上レーダーによる監視と組み合わせた運用が行われています。

ASRアプローチ

ASRアプローチは、ASR(空港監視レーダー)を用いて、管制官が飛行機を滑走路まで誘導する進入方法です。

PARアプローチと似たような進入方法ですが、こちらは垂直方向の偏移情報は示されず、水平方向の偏移情報のみが提供されます。

主に自衛隊機向けに実施されている進入方法です。

NDBアプローチ

NDBアプローチは、NDB(無指向性無線標識施設)の電波を利用する進入方法です。

VORアプローチと原理的には同じものですが、特定コースからの偏移情報が示されないため、VORアプローチに比べて利用上の不便さがあります。

現在、国内の民間空港ではNDB自体が設置されていません。

TACANアプローチ

TACANアプローチは、TACAN(戦術航法装置)の電波を利用する進入方法です。

TACANは自衛隊機・その他軍用機向けの施設であり、民間機は距離情報のみしか得られません。そのため、民間機がこの電波を利用した進入方法を実施することはありません。

APV

『APV』とは”Approach Procedure with Vertical guidance”の略で、水平方向と垂直方向の偏移情報が得られるものの、『精密進入』にも『非精密進入』にも分類されない計器進入の総称です。

『精密進入』が実施できない滑走路には、『APV』を実施できる進入方式が設定されることが多くなっています。

RNP(Baro-VNAV)アプローチ

RNP(Baro-VNAV)アプローチは、GPSの信号による水平方向の偏移情報とFMS(飛行機に搭載されたコンピューター)等によって得られる垂直方向の偏移情報を組み合わせて利用する進入方法です。

前述のRNP(LNAV)アプローチに比べ、垂直方向の偏移情報が加わるため、より精度の高い進入が可能となります。

RNP ARアプローチ

RNP ARアプローチは、Baro-VNAVアプローチよりも更に精度が高い進入方法です。

最終進入経路上に円弧を描くような経路を設定することも可能なため、飛行機は進入経路を正確に飛行する性能を有している必要があります。

特別な許可が必要な航行に分類されており、実施可能な航空会社が限られています。

目視による進入

目視による進入のうち、『コンタクトアプローチ』と『サークリングアプローチ』は計器進入の経路を途中まで辿ることから、計器進入の延長線上に位置している進入方法と言えます。以下はその分類です。

ビジュアルアプローチ(視認進入)

ビジュアルアプローチは、計器進入を実施するよりも航空交通流が促進される(管制上の効率が良い)場合に実施されます。

空港近くまで管制官によるレーダー誘導が行われた後は、パイロット自身で経路(場周経路)を取って飛行することになるため、一定の気象条件以上でなければ実施されません。

国内では福岡空港のRWY34で頻繁に実施されるほか、羽田空港では飛行経路が指定された経路指定視認進入が実施されています。

コンタクトアプローチ(目視進入)

コンタクトアプローチは、レーダー誘導が行われていない空港(ノンレーダー空港)で、パイロットが要求した場合に実施されることがあります。

公示された計器進入の経路の全部または一部を省略して飛行できるため、時間短縮・燃料削減に繋がりますが、パイロットが目視で経路を取って飛行することになるため、一定の気象条件以上でなければ実施されません。

サークリングアプローチ(周回進入)

サークリングアプローチ(ミニマムサークルと呼ばれる事もあります。)は、計器進入で空港に進入し、空港または滑走路を視認した後、パイロット自身で周回進入区域内に経路を取って着陸する進入方法です。

滑走路の先に山があるなど、地形上の制約がある空港では、滑走路の片側にしか計器進入経路を設定できないため、反対側からの滑走路への進入方法としてサークリングアプローチが設定されています。

海外と比べて日本ではサークリングアプローチを実施する機会が多い為、日本におけるパイロットの訓練・審査では必ず取り扱われます。

原則、周回進入区域内で経路を取って着陸する

神戸空港への進入方法は主に2通り!

ILS進入のアプローチチャート(出典:航空路誌)
VOR進入のアプローチチャート(出典:航空路誌)

神戸空港では、計器進入として『ILSアプローチ』と『VORアプローチ』が設定されており、主に『ILSアプローチ』と『ILSを使用したサークリングアプローチ』が実施されています。

空港概要のページでも紹介していますが、神戸空港は出発・到着経路が西側に限定されている為、計器進入は西側からの着陸(RWY09)にしか設定されていません。風向きによっては東側から滑走路に着陸(RWY27)する必要がありますが、その場合は先程紹介した『サークリングアプローチ』を実施することになるのです。

「海面スレスレ」の理由

ILSアプローチとサークリングアプローチの飛行経路
滑走路を左手に見ながら周回進入区域を飛行する

『ILSアプローチ』または『VORアプローチ』による着陸は、滑走路に向けて継続的に高度を下げて着陸する一方、『サークリングアプローチ』は途中で降下姿勢から水平飛行に移り、滑走路の南側(周回進入区域)を飛行して東側から滑走路へ着陸します。

更に神戸空港では、関西空港到着機との垂直間隔確保を目的に「1,500ft以下の高度で周回進入を行う事」と規定されていることから、殆どの旅客機が対地約500ft(約150m)~約1,000ft(約300m)の高度を維持して周回進入を実施しています。「海面スレスレ」を飛んで着陸したと感じる乗客が多いのはこのためです。

ちなみに、サークリングアプローチ(水平飛行中)において最低限維持しなければならない対地高度は各空港の進入方式毎に定められています。この高度はMDH(最低降下高)と呼ばれ、空港周辺の障害物に一定の間隔を確保できる高さが設定されます。神戸空港は周囲を海に囲まれ、大きな障害物がないためMDHは他の空港よりも低く、対地約500ftという低高度での水平飛行が可能となっているのです。

『サークリングアプローチ』と同じく『目視による進入』に分類されている『ビジュアルアプローチ』も低高度での水平飛行を伴いますが、こちらは対地1,500ft(約450m)程度の高度が取られることが一般的です。

【余談】着陸復行と進入復行

神戸空港のILS進入での進入復行経路(出典:航空路誌)

余談ですが、飛行機が着陸をやり直す際に使用する用語は、『着陸復行』と『進入復行』の2種類が存在するという事をご存じでしょうか?

1つ目の『着陸復行』は英語で”Go-Around(ゴーアラウンド)”とも呼ばれ、耳にしたことがある人も多いと思います。この『着陸復行(ゴーアラウンド)』という用語は、単に「飛行機が進入を断念して上昇姿勢に移る」事を意味するため、「飛行機が着陸をやり直す」という場面で広く使用されるのは、こちらの用語です。

2つ目の『進入復行』は英語で”Missed-Approach(ミストアプローチ)”と呼ばれ、計器進入において空港への進入を断念した際に使用されます。『進入復行(ミストアプローチ)』が1つ目の『着陸復行(ゴーアラウンド)』と異なるのは、計器進入でしか使用されないという点と、進入を断念した後に「公示された飛行経路・方法に従って飛行する」事までを含んでいるという点です。

そのため、先程解説した視認進入(ビジュアルアプローチ)など計器進入に当たらない進入方法では、『進入復行(ミストアプローチ)』という用語は使われません。

計器進入は、基本的には計器に依存して空港へ進入することになるため、進入経路はもちろん着陸を断念した場合の飛行方法(飛行経路・高度などが定められており、ミストアプローチプロシージャーと呼ばれます。)も予め公示されており、この飛行方法に従えば地上障害物等にも一定の間隔をもって安全に上昇できるようになっているのです。

正確には、この2つの用語は並列するものではありませんが、一言で「飛行機が着陸をやり直す(復行)」といっても実は奥が深いという事がお分かり頂けたのではないでしょうか?

・着陸復行(ゴーアラウンド):単に飛行機が進入継続を断念して上昇姿勢に移ること
・進入復行(ミストアプローチ):計器進入において着陸のための進入を断念(ゴーアラウンド)し、公示された飛行経路・方法に従って飛行すること

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