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パイロットの知恵袋

サークリングアプローチとビジュアルアプローチの違いは?目視による進入方法を解説!

羽田空港における経路指定視認進入”HIGHWAY VISUAL”も視認進入の一種である。
(出典:航空路誌 RJTT HIGHWAY VISUAL 34R)

サークリングアプローチとビジュアルアプローチの違いについて解説してほしいというご意見を頂きました。サークリングアプローチとビジュアルアプローチは、使用滑走路に回り込むようにして着陸することが多いため、混同される事が多いのですが、実は明確な違いがあります。

ここでは、IFR機が実施する「目視による進入方法」、さらには「サークリングアプローチとビジュアルアプローチの違い」について少し詳しくご紹介します。

目視による進入とは

空港への進入方法はこんなにある!の記事で紹介した通り、旅客機などIFRという飛行方式で飛行する航空機は、基本的に「計器進入」か「目視による進入」によって滑走路へ着陸します。

このうち「目視による進入」は以下3つに分類され、以下のような特徴があります。

IFR機が実施する「目視による進入」の種類
  • ビジュアルアプローチ(視認進入)…管制官によるレーダー誘導に引き続き、地形等を参考に場周経路を飛行して着陸する方法。進入経路が指定された視認進入は、経路指定視認進入と呼ばれます。
  • コンタクトアプローチ(目視進入)…計器進入経路の一部または全部を省略(ショートカット)して着陸する方法。パイロットからのリクエストがあった場合のみ実施されます。
  • サークリングアプローチ(周回進入)…使用滑走路と異なる方位から計器進入で滑走路に近づき、使用滑走路に回り込んで着陸する方法。直線的な計器進入経路が設定されていない滑走路へ着陸する場合に実施されます。

「計器進入」は定められた経路を飛行して滑走路に着陸するのに対し、この3つの進入方法では、パイロットが一部任意の経路目視により飛行することになります。(国際基準であるICAOの定義では、「サークリングアプローチ」や「ビジュアルアプローチ」など「目視による進入」全般を「ビジュアルアプローチ」と総称することがあります。)

IFR機とVFR機

殆どの旅客定期便は計器飛行方式(IFR:Instrument Flight Rules)という飛行方式で運航されています。計器飛行方式とは、管制機関に事前承認された飛行計画に従うとともに、常時管制機関の指示に従う飛行方法で、基本的に外部の視界に頼ることなく飛行することが出来ます。この方式で飛行する航空機をIFR機と呼びます。
対して、多くのプライベート機は有視界飛行方式(VFR:Visual Flight Rules)で飛行しています。有視界飛行方式とは、比較的自由に飛行できる反面、雲中などは飛行できず、外部の視界が確保されていることが条件となっている飛行方式です。この方式で飛行する航空機をVFR機と呼びます。

基本となる滑走路周辺の飛行経路

着陸する航空機の流れを整えるため、滑走路周辺には「場周経路(トラフィックパターン)」と呼ばれる飛行経路が設定されています。場周経路はupwind・crosswind・downwind・base・finalという5つのレグで構成され、右回りの経路はright traffic pattern、左回りの経路はleft traffic patternと呼ばれています。

ビジュアルアプローチを実施する場合や、VFRという飛行方式によって飛行する場合、航空機はこの場周経路を飛行して滑走路へ着陸しています。そのため、ビジュアルアプローチを実施している航空機の航跡を辿ると、多くの場合は滑走路に回り込むような経路で飛行しているように見えるのです。

他方、サークリングアプローチを実施する場合も、似たような経路を描きながら着陸するのですが、サークリングアプローチの実施にあたっては、周回進入区域という保護区域(一定高度で障害物との安全間隔が取れる区域)の存在があります。この周回進入区域は通常の場周経路よりも幅が狭いため、区域内で経路を取るためには、より低高度の飛行かつ小回りの旋回が求められるのです。(通常の場周経路よりも低い高度を飛行することから、周回進入に使用する場周経路はローダウンウィンドと呼ばれます。)

サークリングとビジュアルの違い

先ほど、進入方法によって場周経路の大きさが違うということをご紹介しましたが、細かい条件等をまとめると「目視による進入」は以下のような違いがあります。

ビジュアルアプローチ
(視認進入)
コンタクトアプローチ
(目視進入)
サークリングアプローチ
(周回進入)
実施可能な気象条件等以下の条件を全て満たすことが必要。
・雲高が最低誘導高度より500ft以上高い
・地上視程が5km以上
飛行場・地上物標を確認できる場合で、以下いずれかを満たすことが必要。
・雲高が進入開始高度より高い
・飛行視程が1,500m以上で、安全に着陸できる確信が持てる
航空機のカテゴリー毎に定められた地上視程(1,600m~3,200m)が必要。
また、周回進入中は飛行場を引き続き視認できることが求められる。(事実上、最低降下高以上の雲高が必要。)
実施可能な空港ターミナルレーダー管制業務が提供されている空港(主に管制圏が設定された空港)ターミナルレーダー管制業務が提供されていない空港(主に情報圏が設定された空港)IFR機が発着する全ての空港
実施条件直線的な計器進入経路が設定されていない滑走路へ着陸する場合、もしくは計器進入を実施するよりも交通流が円滑となる場合に実施。
パイロットからの要求、もしくは管制機関の判断で実施される。
計器進入経路の飛行を省略することで、消費燃料の削減・時間短縮に繋がる場合に実施。
パイロットから要求があった場合のみ実施される。
直線的な計器進入経路が設定されていない滑走路へ着陸する場合等に実施。
基本的には管制機関が実施を判断するが、パイロットが要求することも可能。
実施要領空港周辺まで、管制官によるレーダー誘導が行われる。パイロットが空港を視認した後は、場周経路を飛行し着陸する。パイロットの目視によって、計器進入経路の一部または全部を省略(ショートカット)し着陸する。計器進入で空港へ進入。パイロットが空港を視認した後は、最低降下高を維持したまま周回進入区域を飛行し着陸する。
「目視による進入」の各特徴

「実施可能な気象条件等」の比較でお分かり頂けると思いますが、ビジュアルアプローチで求められる地上視程は5km以上であるのに対し、サークリングアプローチで求められる地上視程は1,600m~3,200m程となっています。すなわち、サークリングアプローチはビジュアルアプローチよりも気象条件が悪い際に実施可能な進入方法なのです。

しかしながら、サークリングアプローチは低高度で目視による飛行を強いられ、かつ滑走路へ向けて降下を開始するタイミングもシビアなため、パイロットとしては負荷が大きく、なるべく避けたい進入方法でもあります。そのため、管制上・地形的な制約のある特定の空港以外では殆ど実施されないのが実情です。

滑走路に回り込むような経路を取って飛行することが多いという点では、サークリングアプローチとビジュアルアプローチは似ているのですが、実は様々な違いがあるということがお分かり頂けたのではないでしょうか。

“cancel IFR”という飛び方も!

IFRをキャンセルすることで、進入待ちの上空待機を回避することが可能

比較的小さい空港(ターミナルレーダー管制業務が提供されていない情報圏の空港)では、空港周辺(情報圏内)を飛行出来るIFR機は1機に制限されます。そのため、このような空港では、出発機や到着機が輻輳すると、到着機は上空待機が必要となることがあります。

その際、大きな運航効率を発揮するのが”cancel IFR”です。

“cancel IFR”とは、飛行中に「飛行方式をIFRからVFRに切り替えること」を意味し、計器に頼らずパイロットの目視によって任意の経路を飛行することが可能となります。これにより、IFRで必要とされる他の航空機との管制間隔が適用されなくなるため、上空で待機すること無く空港に進入することが出来るのです。

また、任意の経路を飛行することが可能となることから、計器進入経路を経ずに最短経路で滑走路へ進入出来るため、燃料や時間の効率も向上します。(通常は、先ほど紹介した場周経路を飛行し着陸します。)

ただし、IFRをキャンセルしてVFRで飛行する場合、一定の気象条件以上であることが求められるほか、他の航空機・地上障害物との間隔維持・衝突防止等はパイロットの責任として課せられます。そのため、各航空会社は社内規定でIFRをキャンセル出来る条件を定めているほか、パイロット自身が空港の特性や周辺地形等に精通していなければ、IFRをキャンセルして飛行することはありません。

ちなみに、南西諸島周辺に路線網を有する航空会社では、小さな離島空港を発着する事が多いため、”cancel IFR”が頻繁に実施されています。

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