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将来像神戸空港国際化

神戸空港島にLRTを整備!?サブターミナル計画の具体化で浮上した懸念と課題

神戸市が都心への導入を検討しているLRTのイメージ(出典:神戸市資料)

10日、神戸市の久元市長は記者会見を開き、神戸空港サブターミナル(仮称)の整備概要について発表した。この会見では、サブターミナルビルの完成イメージが示され、開業への期待が高まった一方、同ターミナルの施設整備や運用についての懸念・課題が浮上している。

2025年に迎える国際化に向けて急ピッチで進む神戸空港の基盤整備。時間的余裕が無い中にあっても、行き当たりばったりの整備とならぬよう、将来像を見据えた慎重な検討が必要である。

空港島にLRTを敷設!?

ポートライナー神戸空港駅。費用対効果の観点から現時点でサブターミナルまで延伸される予定は無い。

10日の記者会見で、サブターミナルビルは既存ターミナル・空港駅とを巡回バスで結ぶ計画であるという事が改めて発表された。しかし、久元市長の口からは「当面はバスでの移動となるが、できるだけ早くLRTを整備したい」との発言も飛び出したのだ。神戸市が空港島内へのLRT導入の検討を示唆したことはこれまで一度も無く、この発言の真意・真偽は分かっていない。

サブターミナルビルと既存ターミナル・空港駅間で巡回バスを運行するという方針は当初の基本計画案でも示されていたが、パブリックコメントでは利便性の面から多くの否定的な意見が寄せられていた。しかし、この巡回バスの運行という方針は変更されることはなく、事業者の公募が行われている。

この「利便性」を確保する観点でLRTの導入を検討しているとすれば、検討の方向性がズレていると言わざるを得ない。利便性は「サブターミナルとポートライナー駅の直結」もしくは「サブターミナルから三宮・その他市外への直行アクセスの整備」によって確保されるのであって、空港島内に(路面)電車を走らせる事で確保されるものではないのだ。

ちなみに、神戸市は三宮再整備の一環で「人と公共交通を優先した効率的な交通システムを整えるため」との理由から、都心へのLRT導入の可能性について検討を続けている。そのため、今回の市長の発言は、この議論から派生している可能性も考えられる。

現在、神戸都心では普通鉄道(狭軌・標準軌)・地下鉄・リニア地下鉄・新交通システム・バスなど数多くの交通機関が入り交じり、ある意味でガラパゴス化した状況にある。その結果、各交通機関の規格が合致せず、他都市で進んでいる各交通機関の相互乗り入れが神戸市では進んでいない。このような中、新たな規格としてLRTを導入する意義を見出だすことは難しく、都心へのLRT導入の議論に関しても、単に路面電車が走っていた時代のノスタルジーを求めているに過ぎないという声も聞かれる。

神戸空港ではアクセス増強が喫緊の課題であり、空港・三宮・新神戸を結ぶ大量輸送機関の必要性すら叫ばれているところである。この事から考えても、輸送力増強に寄与せず費用対効果に乏しいLRTを導入するくらいであれば、ポートライナーの延伸を実現した方が遥かに実用的・現実的と言えるだろう。

駐車場の整備は?

当初想定されていた施設配置図(出典:神戸市資料)
新たに示された施設配置図(出典:神戸市資料)

この度示されたサブターミナルの建設予定地は、当初の想定よりも北東側に移され、駐車場の整備を予定していた区画に食い込むように位置している。そのため、サブターミナル利用者向けの駐車場をどのように確保するのか現時点では不明である。

可能性として考えられるのは、サブターミナル西側への駐車場新設、サブターミナル北側への駐車場新設、もしくはサブターミナル東側に位置する既存駐車場の収容台数拡大(立駐化等)の3つのパターンである。

西側への新設となると、サブターミナルのメインエントランスは北東に位置することから、駐車場からターミナルビルまでの動線が非常に不便なものとなる可能性がある。一方、北側への新設となると、サブターミナルのエントランスからは比較的便利ではあるが、サブターミナル建設予定地の北側は空港の告示区域外であり、民間向けの分譲地を利用することになる。

最後の既存駐車場の収容台数拡大案(立駐化等)は、今後整備されるメインターミナルの利用者拡大にも備える事が出来るほか、サブターミナルの東側エントランスまで比較的容易にアクセスが出来ることから、比較的整備効果が高いと言える。

只でさえサブターミナルビルは既存ターミナルから離れており不便さは拭えない。自家用車アクセスの利便性を左右することになる駐車場の配置については慎重な検討が必要である。

展望デッキの限られた眺望

展望デッキは北向きに整備される予定である(出典:神戸市資料)

サブターミナルには展望デッキが設けられる予定で、完成イメージでは空港北側を中心とした神戸市街方面の眺望が確保されることとなっている。しかし、この方角では肝心の飛行機が殆ど見えない可能性が高いのだ。

新たに示されたサブターミナルは、駐機場に接していないことから、飛行機を間近に見ることが出来ない。そのため、展望デッキの眺望は敢えて北側だけに限定したと考えられるが、空港の展望デッキで飛行機が見られないというのは極めて異例である。

現在のターミナルビルの展望デッキでは飛行機を間近に見られることから、飛行機を見るのであれば既存ターミナルビル、神戸市街地方面の北側の眺望を楽しむのであればサブターミナルビルといった役割分担は出来るものの、利用者にとっては不便さ・物足りなさが残る可能性がある。

分散する国内線ターミナル

FDAカウンターはSKYカウンターの裏手に位置する。現状、手荷物搬送コンベア等はSKYと共用(間借り)している。

この度整備されるサブターミナルは、国内線の増便(1日40便)と国際チャーター便の受け入れ役割を持つ。そのため、今後増便される国内線は殆どがサブターミナルを発着する可能性がある。

現在、新潟を拠点としたLCCトキエア(2023年6月から事業開始予定)が神戸空港への新規参入を表明しており、同社をはじめ今後神戸空港へ新規参入する航空会社はサブターミナルを利用する可能性が高い。しかし、問題となるのは既に神戸を発着する航空会社が増便を希望した場合である。

同一航空会社で発着便によってターミナルが異なるという事は国内では殆ど例がなく、利用者の大きな混乱を招く可能性がある。そのため、神戸発着の既存航空5社が増便を希望した場合、同一ターミナルを発着できるよう調整することが望ましく、一部の便がサブターミナルを発着するというようなことは避けなければならない。

ちなみに、既に神戸空港に就航しているフジドリームエアラインズに関しては、参入時点からチェックインカウンターに十分な空きが無く、スカイマークと手荷物搬送コンベア等を共用(間借り)する状況が続いている。そのため、サブターミナルの開業と同時に同ターミナルへ移転する可能性も考えられる。

今後、国際定期便を受け入れるメインターミナルが整備される予定であり、将来的には分散した国内線をメインターミナルに集約できるような設計が求められる。

空港島将来ビジョンは今年度策定されるが…

既存ターミナルと海上アクセスターミナルを結ぶ連絡通路のイメージ(出典:神戸市資料)

神戸市は、令和5年度中に神戸空港島の新たな将来ビジョンを策定するとしている。

この策定にあたっては、空港島内への商業施設等の誘致も含めて検討されており、空港利用者以外の集客施設の整備も期待される。また、ベイシャトル乗り場と既存ターミナル間の連絡通路の整備等も検討されており、各施設間の動線も改善される見込みである。

その一方で、今回発表されたサブターミナルは既存ターミナル等から孤立した位置への整備が予定されている。利便性の面での不安に加え、施設間の連携という意味でも課題は大きい。また、国際定期便の受け入れに利用されるメインターミナルが完成した後、サブターミナルがどのように運用されるのかも現時点では示されていない。

神戸空港は1日30往復という発着規制を前提に開港を迎えたため、規制緩和が進みつつある今となっては施設容量がパンクしている。幸い、現在の駐機場周辺の用地を確保することで空港基本施設の容量を引き上げることは出来たものの、将来的な更なる運用拡大に備え、未売却となっている他の分譲地の転用も視野に入れる必要があると言えるだろう。

今後、国際化に向けて必要な施設整備が進んでいくことになるが、各施設を行き当たりばったりで設計・配置するのではなく、将来的な連携・整合性・拡張性まで考慮し整備を進めていかなければならない。

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