飛行機が離着陸するために不可欠な滑走路。その滑走路は空港毎に仕様が大きく異なるほか、運用方法も様々です。ここでは、滑走路や航空保安施設の話、また平行滑走路で実施される「平行運用」「同時平行運用」について簡単に解説しています。
滑走路上の標識・灯火の数々!
飛行機が離着陸するために不可欠な滑走路。その滑走路には様々な標識が描かれ、様々な灯火が整備されています。以下は滑走路の標識・灯火や滑走路周辺に位置する航空保安施設を示した概略図です。(下図は岩国飛行場の例です。配置されている灯火・無線施設等は空港によって多少異なります。)
滑走路及びその周辺には様々な標識・灯火・無線施設が整備されていることがお分かり頂けるかと思います。
空港への進入方法はこんなにある!の記事でも紹介していますが、グライドスロープアンテナやローカライザーアンテナは航空機に向けて、進入コースを示す電波を発しており、この電波信号を元に航空機は精密進入が可能となります。(グライドスロープは滑走路に対する垂直方向の偏移情報を、ローカライザーは滑走路に対する水平方向の偏移情報をパイロットに提供します。)
しかし、ローカライザー・グライドスロープは全ての滑走路に整備されているわけではありませんし、飛行機と滑走路との位置関係を知ることが出来る視覚的な情報も必要です。そのため、滑走路上には目標点標識が描かれているほか、滑走路脇には進入角指示灯(PAPI)が設置され、適切な進入角・経路の維持に重要な役割を果たしているのです。
着陸目標点を示す標識。滑走路末端から400m(2400m未満の滑走路の場合は300m)の位置に表示される。
計器着陸用滑走路や1200m以上の計器着陸用以外の滑走路に表示されており、基本的に航空機はこの目標点付近に向かって進入する。
航空機が滑走路末端に至るまでの正確な進入角を示す灯火。適正な進入角上では、〇〇●●の灯光が確認できる。
大型機を基準に設置位置が決められているため、小型機は〇●●●などを示すように滑走路末端を通過する。
また、悪天候の際には、滑走路の延長線上に設置された進入灯の存在も欠かせません。
例えば、着陸出来るかどうかギリギリの気象条件で、CAT1のILS進入を実施している場合、決心高(対地 約60m)で唯一視認できる灯火は進入灯です。その進入灯を視認することが出来れば、パイロットは水平方向のズレを判断することが可能となり、その先の滑走路へと安全な進入を続けることが出来るのです。
飛行機の客室の窓から滑走路全体を見る機会は殆ど無いと思いますが、滑走路はただのアスファルト舗装を施しただけの『路』では無いことがお分かり頂けたのではないでしょうか?
滑走路へ着陸する航空機に対し、その最終進入経路を示す灯火。
標準式進入灯と簡易式進入灯の2種類が存在し、ILSなどの精密進入が実施される滑走路には長さ900mの標準式進入灯が設置される。進入灯の用地確保に制約がある場合には、進入灯の長さが短縮されているか、進入灯自体が設置されていない事もある。
また、CAT1 ILS進入用とCAT2・3 ILS進入用で灯光の配置が異なり、写真下のサイドバレット・150mクロスバーはCAT2・3用の進入灯に限って整備される。
滑走路は平坦じゃない!?長さ以外にも様々な違いが
空港毎に滑走路の長さが異なるということはご存知の方も多いと思います。しかし、「長さ」以外にも「幅」が違ったり、「勾配」が付いていたりするということはご存じでしょうか?
実は、滑走路の「幅」は空港によって倍以上の差があり、民間機が発着する空港では最も狭いもので25m幅、最も広いもので60m幅となっています。中でも、ジェット機が発着するような空港では、45m以上の幅の滑走路が必要とされ、多くの基幹空港では60m幅の滑走路が整備されています。
さらに、「長さ」と「幅」だけでなく、「厚さ」も空港によって様々です。滑走路のアスファルト厚は、想定される旅客機の重量に合わせて舗装厚が決められており、空港によってその強度が異なります。
また、平坦と思われがちな滑走路ですが、実は「まっ平ら」な滑走路は殆どありません。建設工程上の都合や、地盤沈下などの影響を受けて、滑走路には勾配がついていることが多いのです。
上記の画像は、羽田空港の滑走路断面の傾きを表したものです。最も新しいD滑走路(RWY05/23)では、東京第1航路への影響を小さくするため、RWY23の進入端が高くなるように整備された結果、滑走路中央からRWY23側にかけて0.33%の勾配がついています。
許容される滑走路勾配には勿論限度がありますが、この勾配が大きくなればなるほどパイロットに錯覚をもたらし、着陸には多少のテクニックが要求されます。
他にも、滑走路標識の色は通常白色ですが、積雪が多い地域では雪とのコントラストを考慮して黄色(オレンジ色に近い黄色)で塗装されるなど、滑走路の仕様は空港毎に大きく異なるのです。
平行滑走路にも種類がある
比較的大きな空港では複数の滑走路が存在し、交差する形で整備されている滑走路は横風用滑走路として、平行に整備されている滑走路は平行滑走路として運用されています。中でも平行滑走路は、滑走路同士の間隔によって以下3つの分類が存在します。
- クロースパラレル…平行する滑走路中心線の間隔が760m未満の平行滑走路
- セミオープンパラレル…平行する滑走路中心線の間隔が760m以上1310m未満の平行滑走路
- オープンパラレル…平行する滑走路中心線の間隔が1310m以上の平行滑走路
さらに、以下の表をご覧いただければお分かり頂けると思いますが、平行滑走路はその間隔が広くなればなるほど、滑走路運用の幅が広がり、空港全体の処理能力向上に繋がるのです。
『同時平行進入』と『平行進入』
先程触れたように、「オープンパラレル」に分類される滑走路では、「クロースパラレル」「セミオープンパラレル」に分類される平行滑走路に比べ、より高度な運用が可能となっています。それは「同時平行進入」です。
平行滑走路を使用した通常の「平行進入」の場合、それぞれの滑走路を発着する航空機間にも一定の管制間隔を維持する必要があります。しかし、「同時平行進入」であれば、各滑走路を独立した滑走路として見做すことができ、同一滑走路を発着する航空機間のみに管制間隔が設定されるため、多くの飛行機を捌くことが出来るのです。
また、「セミオープンパラレル」「オープンパラレル」の平行滑走路では、出発経路が分岐している等の要件を満たしている場合に「同時出発」の運用を行うことが出来ます。さらに、唯一特殊な事例として、成田空港では環境面への配慮から出発経路を平行に設定した「同時平行出発」が実施されています。
空港名 | 滑走路 | 同時平行進入/出発 |
---|---|---|
新千歳空港 千歳飛行場 | 01L/19R・01R/19L(ILS) 36L/18R・36R/18L(PAR) | 同時平行ILS/PAR進入 |
成田国際空港 | 16L/34Rー16R/34L | 同時平行進入 同時平行出発 |
東京国際空港 | 16L/34Rー16R/34L 16Lー16R 22ー23 | 同時平行ILS進入 同時平行RNAV進入 同時LDA進入 |
関西国際空港 | 06L/24Rー06R/24L | – |
那覇空港 | 18L/36Rー18R/36L | – |
同時平行進入/出発の運用に際しては、平行する各飛行経路間に不可侵区域(NTZ)が設定され、その区域を監視する専門の管制官の配置が必要となるなど、管制上も特殊な運用となりますが、主要空港の発着能力を引き上げるためには避けては通れない運用方法なのです。
ちなみに、西日本の基幹空港である関西空港でも、オープンパラレルの長大滑走路が整備されていますが、同時平行進入/出発・同時出発は実施されていません。その理由については、また別の機会で詳しく取り上げることにしましょう。
ここまで「滑走路」に焦点を当てて雑学を紹介してきましたが、如何でしたでしょうか?今後飛行機を利用される際、巡航中の景色だけでなく、離陸前・着陸後の空港内の景色を楽しむ材料となれば幸いです。