
2022年9月18日、第12回関西3空港懇談会が大阪市内で開催された。この懇談会において神戸空港は国際化の方針が正式に合意されるなど、関西3空港を巡る議論は大きな進展を見せた。ここでは3空港懇での合意内容を振り返り、神戸空港の国際化に向けたスケジュール・課題等をまとめた。

第12回3空港懇が終了!
第12回関西3空港懇談会では主に以下の内容が議論され合意がなされた。
第12回関西3空港懇談会 取りまとめ 概要
1 基本的考え方
〇関西3空港で中軸となる関西空港は、コロナからの早期回復を最優先に図りつつ、2025年万博や関西の成長機会を確実に捉えるとともに、2020年代後半に年間100万回の発着容量確保を目指す首都圏空港との競争力を確保する観点からも今後の容量拡張が極めて重要である。
〇神戸空港は、関西の成長の一翼を担う観点より、歴史的経緯に十分配慮しつつ、関西空港・伊丹空港を補完する空港として、効果的に活用していく必要がある。
〇本懇談会としては、2030年前後を目途に、3空港全体で年間50万回の容量確保を目指し、第9回取りまとめを基本とし、その「中期の視点に立った取組」等について以下の通り進める。2 関西空港の容量拡張
〇一刻も早い関西空港の復活と更なる成長に向け、国内の観光・ビジネス需要の回復、水際対策の緩和に併せた速やかなインバウンド回復策の展開などに、一致協力して取り組む。
〇2025年万博後においても、長期的な視点で成長を図っていくことが重要である。本懇談会は、「関西国際空港の将来航空需要に関する調査委員会」の中間報告を踏まえ、成長目標として、2030年代前半を目途に、年間発着回数30万回の実現を目指す。
〇航空機処理能力については、国の検証結果、調査委員会中間報告を踏まえ、上記30万回の実現に必要な能力を確保するため、2025年万博までに1時間あたりの処理能力を概ね60回に引き上げることを目指す。3 神戸空港のあり方
〇関西空港・伊丹空港を補完する空港として、効果的に活用する。その際、特に神戸市以西の新たな市場開拓等に積極的に取り組み、関西3空港の需要拡大に貢献する。
〇国内線は1日の最大発着回数を現在の80回から120回に拡大する。時期については、2025年万博への対応も視野に入れつつ、新たに整備が見込まれる国内線ターミナルの運用開始時を基本とする。
〇国際線は将来における国際定期便の運用を可能とする。時期については、まずは関西空港の本格回復の取組みを進め、成長軌道への復帰を果たすことが必要であり、今後検討される国際線ターミナルの運用開始や関西空港の混雑が予想される2030年前後を基本とし、需要動向や関西空港への影響を見ながら、1日の最大発着回数を40回とする。国際チャーター便については、関西空港を補完する観点から2025年万博開催時からの運用を可能とする。
〇運用時間については、航空需要などを踏まえ、引き続き検討する。
〇上記の具体化にあたっては、社会経済情勢や航空会社のニーズ等を踏まえ、関西エアポートグループの経営判断を尊重し、実施する。4 今後の進め方など
〇上記2,3の実現のため、国に対し、現行の飛行経路の見直しについて検討するよう要請する。検討にあたっては、地域の実情を十分考慮し、必要最小限の範囲で見直すことなどを求める。
第12回関西3空港懇談会 取りまとめ 概要(2022年9月18日 関西3空港懇談会事務局)
〇検討結果が示されたのちは、環境面での検証を行い、2025年万博までに地元としての見解を取りまとめる。そのため、関係者は緊密に連携・協力し、地域との調整や必要な取組みを進める。空港と地域社会の双方が共に発展することが重要であり、まず2025年万博までを目標に地元と連携した観光振興策等を検討・推進する。
〇2025年万博を経て、関西空港、神戸空港が成長軌道に乗ったのちは、長期の視点を持って、さらなる将来のあり方を議論する。
〇伊丹空港についても、上記とともに、2019年の本懇談会取りまとめに基づき、今後のあり方について必要な議論を行うものとする。
〇懇談会は今後も適宜継続開催し(原則年1回程度)、関係者の連携・協力のもと、その時々の状況変化に応じて評価検討を行い、必要な課題について議論し、順次結論を得る。
このように、今回の3空港懇では神戸空港の規制緩和議論にも大きな進展が見られ、国際化へのスケジュールが大まかに示されることとなった。
発着枠については、既にほぼ上限に達しており、早期の拡大が求められていた。今回、発着枠の拡大も合意されているものの、これ以上の旅客受け入れには国内線ターミナルビルの拡張が不可欠なため、国内線ターミナル拡張整備完了後に発着枠を引き上げるという。
また、国際化については2025年頃までの中期目標として定められていたが、新型コロナウイルスの影響を受けてその後の議論が停滞。国際化にかかるハード面の整備は2025年に間に合わないため、大阪・関西万博が開催される2025年頃から国際チャーター便のみを受け入れる方向性となっている。国際定期便については2030年頃の就航で合意され、ハード面の整備には十分な時間が確保されることとなった。
これまでの合意内容振り返り
以下は、神戸開港前に開かれた第4回関西3空港懇談会から今回の第12回関西3空港懇談会までの神戸空港に関する合意内容の振り返りである。神戸空港の運用規制が緩和されるまで、非常に長い年月がかかったという事が改めてお分かり頂けたのではないだろうか?
関西3空港の運営会社が同一となった今、依然として運用規制を敷いているのは本来ナンセンスである。しかし、関西空港周辺自治体への配慮と関西空港への路線誘導を図るという方針から、完全な規制撤廃は依然として困難な状況なのだ。
発着枠 | 運用時間 | 国際線の取り扱い | |
---|---|---|---|
2005年11月 第4回関西3空港懇談会 | 1日30往復 | 15時間 (7時~22時) | オウンユース機に限る |
2006年2月 神戸空港開港 | / | / | / |
2019年5月 第9回関西3空港懇談会 | 1日40往復 | 16時間 (7~23時) | オウンユース機に限る |
2022年9月 第12回関西3空港懇談会 | 新国内線ターミナル整備完了後 国内線1日60往復 2030年前後 国際線1日20往復 | 16時間 (7~23時) | 2025年から 国際チャーター便運航開始 2030年前後 国際定期便運航開始 |

「小さく生んで大きく育てる」の弊害

以下の表は、神戸空港と同規模の利用実績がある地方空港でターミナルビルの延床面積を比較したものである。(開港後に増築された部分は反映されていないため、延べ床面積のデータは最新ではない。)離島空港である新石垣空港を除き、神戸空港のターミナルビルが如何に小さく設計されたかお分かり頂けるだろう。
空港名 | 旅客数(2021年度) | ターミナルビル延床面積 |
---|---|---|
神戸空港 | 約175万人 | 18,559m² |
仙台空港 | 約165万人 | 44,302m² |
宮崎空港 | 約141万人 | 28,200m² |
新石垣空港 | 約141万人 | 12,600m² |
熊本空港 | 約136万人 | 37,500m²(新ターミナルビル) |
神戸空港を整備するにあたり、神戸市が掲げたのは「小さく生んで大きく育てる」というコンセプトであった。そのため、空港施設全体が最小限の規模で整備され、結果的に旅客動線が短くなったことから「コンパクトで使いやすい」空港に仕上がった。だが、この「コンパクト」さが逆に仇となり、コロナ禍前には空港内の大混雑による出発便の遅延が発生している。現状、コロナ禍前の旅客数には回復していないが、今後の旅客数回復と国内線の増便・国際線の就航を念頭に置くとターミナルビルの拡張は避けて通れず、今回合意された発着枠拡大もターミナルビルの拡張完了後に実施される。
また、アクセス交通に関しても、ポートライナーの混雑は依然深刻である。そのため、神戸市は空港利用者のシャトルバスへの誘導を進めるため、空港連絡橋の拡幅工事に着手している。今後は、新神戸トンネルの延伸も事業化される見通しで、アクセス交通の更なる増強が図られることになる。
「小さく生んで大きく育てる」というコンセプトは、神戸空港の利便性の評価に繋がった。だが、「小さく」て済む段階は既に終わりを迎えている。今後の国際化を進める上では、滑走路の延伸や空港島の利用計画見直しも含め、大きなビジョンを描いていく必要がある。

飛行経路も見直しが進むか!?

現在、神戸空港発着便は必ず明石海峡上空を経由するような飛行経路が設定されており、出発機と到着機が重なるような場合には、どちらか一方に待機が必要となることがある。そのため、今後発着便が増加すると、離陸待ち・着陸待ちの待機が恒常的に発生する可能性があり、神戸空港においては飛行経路の見直しが急務となっている。
図は神戸空港の新しい飛行経路案の一例を示したものである。平面を走る陸上交通と異なり、3次元の空間を飛行する飛行機は、他の飛行機との間隔を水平方向だけでなく垂直方向に取ることも可能である。そのため、神戸空港の出発機は東の海上で高度を稼ぐことで、明石海峡上空を経由するという前提を大きく変えずに到着機との競合を避けることも事実上可能なのだ。(図で示した経路案は、関西空港出発機がRWY06Rを使用する際の一部経路を示したものであり、関西空港到着機がRWY24L/Rを使用する際には関西空港到着機との競合が発生する。)
関西3空港の飛行経路を解説!でも触れているが、現行の関西空港の飛行経路は大きな改善余地がある。今回の3空港懇談会では「関西空港の発着枠拡大」も合意されており、関西空港の発着容量を大きく増加させるに当たっては飛行経路の見直しは避けられない。伊丹・関西・神戸の3空港全てが効率的に運用できる飛行経路の設計・検討が求められている。


国際化のスケジュールは?就航路線は?
今回の関西3空港懇談会では、神戸空港の国際化に関する大まかなスケジュールは示されたものの、具体的な内容・スケジュールについては神戸市と関西エアポートとの間で今後検討が進むことになる。予想されるスケジュールについて以下にまとめた。
国際定期便の就航については2030年前後という表現が使用されていることから、2030年より遅れる可能性も早まる可能性も秘めている。関係省庁との調整に加え、ハード・ソフト面の設計・整備等、国際化に向けた課題は山積している。可能な限り国際化スケジュールが前倒しとなるよう期待したい。
2022年 | 神戸空港国際化の合意 |
2023年 ~2025年 | 現ターミナルビルの拡張設計・工事 CIQ体制の構築等 |
2025年 | 国際チャーター便の就航 (大阪・関西万博開催) |
2025年 ~2030年前後 | 国際線ターミナルビルの設計・工事 CIQ体制の拡充等 |
2030年前後 | 国際定期便の就航 (1日20往復) |
また、現在の滑走路長(2500m)を前提にすると、神戸発着の国際線は近距離~中距離路線の就航が想定される。
以前、マスコミの取材に対し、関西エアポートの山谷社長は「インド便」などの就航を期待すると述べた。これは神戸市に多く居住する外国人を念頭に置いた発言と見られ、関西空港の稼ぎ頭であったインバウンド以外の需要を取り込みたいという意図が読み取れる。
また、航空政策の評論家などからは、神戸空港は阪神間のアウトバウンド需要を取り込める可能性について指摘する声も多い。例えばグアムやハワイなど日本人旅行者をターゲットとした路線開設も可能性としては大いにある。(事実、神戸を拠点とするスカイマークもサイパン線・パラオ線の神戸就航を示唆していた。)
就航路線は航空会社が決めることであり、あくまで推測に過ぎないが、神戸空港発着の国際線はインバウンド需要を柱としている全国の地方空港とは異なった路線構成となる可能性が高いと言えるだろう。
