
政府が進める「特定利用空港」の指定拡大をめぐり、神戸空港が検討対象となっていることが先日明らかとなった。
現在、神戸空港は国際化という大きな転換点を迎えている。そのタイミングで浮上した今回の話題は、空港の将来像にも少なからず影響を与える可能性があり、市民の間でも賛否の声が渦巻いている。
ここでは「特定利用空港への指定検討」に関して賛否・是非を断言することは控えるが、考えられるメリットやデメリット等について綴りたい。
「特定利用空港」とは?「=軍事利用」とは言い切れない
特定利用空港とは、防衛省や海上保安庁が平時から訓練や災害対応などで利用できるよう、国が空港機能の強化を進める空港のことである。具体的には、滑走路延伸や駐機場の拡張、燃料施設やエプロン整備など、平時・有事の双方で活用可能なインフラ整備を国費によって進めるとされている。
ここでしばしば誤解されるのが、「特定利用空港への指定=軍事基地化」というイメージである。
特定利用空港に指定されたとしても、空港の基本的な位置付けはあくまで民間航空主体の空港であり、その性格が直ちに変わるわけではない。実際の運用として想定されているのは、自衛隊や海上保安庁による災害派遣訓練、物資輸送訓練、共同防災訓練などが中心であり、戦闘機等が常駐する恒常的な軍事拠点となる制度ではない。
それでも、「自衛隊が利用する」という言葉が持つ心理的インパクトは小さくない。有事の際に攻撃対象となる可能性を懸念する声が上がるのも、決して不自然な反応ではないだろう。空港が地域インフラである以上、住民の安全保障に対する受け止め方と丁寧に向き合う姿勢もまた不可欠である。
指定によるメリット ― 国費投入と運用改善の可能性
特定利用空港に指定される事の最大のメリットは、国によるインフラ投資の可能性にある。
現在、神戸空港では2030年4月の完全国際化に向けて駐機場の拡張やターミナルビルの拡張等が進められているが、更に先の将来を見据えると滑走路の延伸や交通インフラの整備などは避けて通れない。だが、これらを神戸市単独で負担し続けることには限界がある。
もし、特定利用空港に指定されれば、防災・安全保障拠点という位置付けのもと、国費による施設整備が進む可能性が生まれる。自治体主導で整備してきた神戸空港にとって、これは現実的な財政メリットと言える。
さらに見逃せないのが、航空管制上の運用見直しにつながる可能性だ。
現在、神戸空港では周辺空域との調整や騒音配慮などにより、飛行経路の設計に自由度が少なく、進入・出発経路は他空港に比べて制約があるのが現状である。2025年4月には、神戸空港で飛行経路の再編が行われたものの、到着経路(進入方式)の見直しについては限定的で、未だにRWY27側には周回進入しか設定されていないという国際空港としてはお粗末な状況が続いているのだ。(周回進入についての解説はコチラ)
特定利用空港として国の関与が強まれば、出発到着経路の再設計・空域運用の見直しや運用時間の拡大など運用面での改善が検討される可能性もある。これは民間航空にとっても遅延減少・就航率の向上等につながるメリットであり、神戸空港の将来的な発展に寄与する要素と言えるだろう。


指定によるデメリット ― 新たな制約が増える可能性

もちろん特定利用空港に指定された場合に想定されるのは、メリットだけではない。
神戸空港は地方空港としては発着便が多いため、航空機使用事業(パイロットの養成訓練や遊覧フライト等を実施する事業者のこと。以下、使用事業。)の離着陸訓練等には既に一定の制約(1日の実施回数等)が設けられており、旅客定期便の離着陸の合間を縫って訓練が実施されている。そこへ自衛隊機等の訓練が加われば、使用事業の航空機運航やプライベート機等の受け入れには現状よりも更に制約が生まれる可能性があるのだ。
そうなれば、空港島に進出している使用事業の事業者にとって使い勝手が悪くなることは勿論、新たに航空機関連産業を誘致する際のハンデとなる可能性もある。また、離着陸訓練等が増えると、定期便の発着にも遅延が生じやすくなるというのは言うまでもない。
このように、訓練機が増えるということは空港にとってもデメリットを伴う上、神戸空港自体が自衛隊側にとっても「訓練しやすい空港」とは言えないのが現状である。仮に「特定利用空港」として指定を受けたとしても、その役割を十分に果たせない可能性すらあるのだ。
滑走路延伸の契機となる可能性

先程、特定利用空港の指定のメリットとして「滑走路延伸の可能性」を挙げた。だが、神戸空港の現状を見れば、その実現性は必ずしも高いとは言い切れない。
神戸空港の滑走路長は2,500mであり、自衛隊機等が利用する上では現状でも支障のないスペックを備えているためだ。また、民間航空機においても、機材によっては米国西海岸や中東方面などへの就航も可能であり、国際線の就航可能地域は一定程度確保されている。(コチラの記事を参照)
こうした背景を踏まえると、国が制度上のメリットとして掲げる「滑走路延伸事業への支援」は、主として滑走路長2,000m以下の離島空港等を想定したものとみられる。したがって、「滑走路延伸事業への支援」という観点で見ると、神戸空港ではどこまで国の協力が得られるかは未知数なのだ。
とはいえ、滑走路延伸に意義を持たせるには今が一番のタイミングである。神戸空港では、RESA(滑走路端安全区域)の改修が目前に迫っているのだ。
神戸空港では、滑走路西側に設けられたRESAが国際基準を満たしておらず、令和8年度末までの改修工事着手が求められている。このRESAを改修するには、滑走路の延長・短縮・移設等の対応が求められるのだが、神戸市は目先のコスト等を優先して滑走路を東側に移設する準備を進めている。
仮に特定利用空港へ指定された場合には、RESA改修にも国の積極的な支援が得られるため、検討に際しての前提条件が変わってくる。単なる滑走路移設ではなく、滑走路延伸を伴う改修として国の支援を引き出せる余地が生まれるためだ。
もちろん、RESA改修の計画を今から抜本的に見直す時間的余裕はほぼ残されていない。しかし、特定利用空港への指定が現実となるのであれば、神戸市には将来的な滑走路延伸を視野に入れた国との協議・交渉を進める姿勢も求められるだろう。

神戸市が築いた「自前空港」という特殊性
神戸空港の歴史を語る上で忘れてはならない事実がある。
それは、神戸空港は国や都道府県主導で整備された多くの地方空港とは異なり、神戸市が主体となって建設された極めて珍しい空港であるという点だ。
空港施設の整備に関しては、航空法に定められた最低限の国費が投入されているのは確かである。だが、埋立などを含めた総事業費で見ると神戸市の財政負担は9割以上に上る。神戸空港は神戸市が大きなリスクを負い、長年にわたって築き上げてきた「貴重な財産」と言えるのだ。しかも、その運営に際しても発着枠や運用時間・国際線の運用等に厳しい規制を掛けられ、決して恵まれた環境とは言えない状況を耐え抜いてきた歴史がある。
だからこそ、国防としての利用を受け入れるのであれば、単なる「協力」ではなく、明確・具体的なリターンを求める交渉が必要であり、単なる“タダ乗り”のような形では特定利用空港への指定を容認するべきではないだろう。

神戸市はメリット・デメリットを慎重に見極めよ

特定利用空港として指定された空港は、国が大きく関与できる国管理空港が中心であり、地方自治体に所有権・権限がある地方管理空港の指定例は限られている。地方管理空港の場合、便数が少なく財政的にも厳しい空港が多い。
つまり本制度は、地方空港の維持(有効活用)と安全保障機能を組み合わせる側面も持っていると言えるだろう。その点では神戸空港は明らかに性質が異なる。
にも関わらず、神戸空港が特定利用空港の検討対象となった背景には、陸上自衛隊伊丹駐屯地に近く、海上空港で制約が比較的少ないという評価があるとみられる。しかし、実際には空域面での制約が存在し、深夜早朝の運用や発着枠等についても国の規制によって制限されている。都合の良い時だけ「制約が少ない空港」と評価するのは虫が良すぎるのではないだろうか?
神戸空港では、駐機場の拡張など空港施設に関わる整備に加え、大阪湾岸道路や港島トンネルの延伸など交通インフラに関わる整備も道半ばにある。さらには、運用時間の延長や国際線受け入れ体制の拡充など、運用面での規制緩和も待ったなしの状況となっている。
政府による特定利用空港の指定検討にあたっては、神戸市が国に対し相応のリターン(前述のようなインフラ整備や運用面の規制緩和)を引き出す交渉を行うとともに、空港の将来発展を損なわないかを見極めることが不可欠である。また、現在神戸空港を運営している関西エアポート神戸の意向確認も欠かせず、神戸市にはメリットとデメリットを冷静に見極めた慎重な判断が求められている。

